アタマジラミ




赤ちゃんスリングと先天性股関節脱臼

最近流行している赤ちゃんスリングは、おんぶひも、抱っこひもに比べファッション性が高いためか、使用されてきています。しかし、生後3か月未満の赤ちゃんに横抱きの状態で使用されている場合もあり、股関節脱臼になる危険性があります。スリングを使う際、股関節脱臼にならないように生後1か月以降に使用するのが望ましいとされています。また、スリングをまだ首がすわっていない生後3か月未満の赤ちゃんに使用するときに、「よこ抱き」や「バナナ抱き」のように下肢を伸展した形で使用すると、股関節脱臼を誘発する肢位になり易い危険性があります。この年齢ではスリングで長時間横抱きにするのは股関節にとってはあまり良いことでは無いと考えます。もしスリングを生後3か月未満の赤ちゃんに使用するときには、縦抱きにして赤ちゃんの股関節が開いた開排位になるように、両下肢が母親のおなかをまたぐように股関節を広げて、膝を曲げた状態になるような使用法で使用する必要があります。関節は自由に動かせるようにし、首が据わるまでは首の後ろに手を添えてあげて下さい。
 赤ちゃんの股関節を守るために大切なことは赤ちゃんの股が開いて下肢がM字になっている赤ちゃん本来の自然な姿勢がとれるような配慮をすることです。赤ちゃんを横に抱っこするときでも、赤ちゃんの股の間に手を入れて、おしりを支えるようにして下肢が自由に動けるような配慮をしながら抱っこすることが必要です。
 たて抱きは足が十分に開いている抱き方なので問題はありませんが、横抱きのときは赤ちゃんの足の位置に注意が必要です。赤ちゃんの足はひざを少し曲げた状態でのM字が理想的です。ですから足側のポーチは広めにとり、抱いた後必ず赤ちゃんの足がM字になっているかどうかチェックして下さい。ただ、赤ちゃんが上を向いた状態の横抱きだとお母さん側にある赤ちゃんの股関節を、お母さんのお腹で押してしまい股関節が動きにくくなりますので長時間は避けるべきです。先天性股関節脱臼の予防の本質は、赤ちゃんの下肢の自由運動を妨げないということです。

1)下肢の動きをなるべく制限しないような薄いオムツ、オムツカバーを股間に当て、赤ちゃんの下肢の自由な動きを妨げないことが基本です。したがって下肢の動きを制限するようなオムツカバーや衣服は使用しないことが重要です。赤ちゃんの下肢の運動とは、曲げることも伸ばすことも含まれます。伸ばすことも重要です。

2)赤ちゃんを抱く場合は、抱く人と赤ちゃんとがお互いが向き合うようにするのが大切です。そうすれば赤ちゃんの下肢は自然な形をとり、ある程度自由な運動が可能になります。赤ちゃんを横にして抱くと、下肢の動きが制限されるので横抱きは出来るだけ避けるべきです。
 首が座っていたら当て抱きにして腰抱きにします。スリングはどうしても股関節を閉じてしまい易いので、抱っこする人の腰骨の上で股をまたがせるようにして抱っこするようにします。スリングに入れる時に赤ちゃんの股をしっかりと開脚させ、抱っこする人の体にしがみつかせるような体勢にすることが重要です。そして、赤ちゃんの膝下は自由に動かせるように、スリングの外に出しておくことが基本です。
 小さくて足が外に出せない場合は、スリングの中で 開脚状態にし、足が多少自由に動かせるように留意する。足が出せるようになったら出来るだけ出すようにします。
 新生児の頃から、赤ちゃんは抱っこする人と向い合わせになるようにして、股関節をしっかり開くようスリングに入れてあげてください。足が出ない場合は股関節が広がっていること、お尻に体重がかかっていることを確認してください。股関節が開くか、自由に動かせるように抱っこすることが理想です。赤ちゃんの足がカエルのように開いた形で抱っこするような形でスリングを使うと良いと思います。スリングの基本としては、手で自然に抱っこした形をスリングで再現することです。



赤ちゃんの抱っこと抱きぐせ

 泣いている子を抱き上げると泣き止むのは気持ちが良いからです。赤ちゃんは抱っこされると、抱っこした人の温かみや体動を感じ、赤ちゃんの持つ動物としての本能が自分は守られていると感じ、安心します。抱っこされないで育つと情緒が不安定な子に育つといわれます。逆に、親は赤ちゃんを抱っこすることで、赤ちゃんの温もりや体動を感じ、その生命力や守ってあげなければならない存在を実感します。抱っこは親にとっても子どもとの一体感を感じる上で大切です。

1、なぜ泣くのか
 生まれてすぐの赤ちゃんはお腹の空いたときに泣きますが、しばらくすると暑い、寒い、痛い、オシッコ、ウンチ、ゲップが出そうなど不快な気持ちにも泣くようになります。知恵がついてくるに従い、さびしい、人が近くにいてほしい、かまってほしい、親の関心を自分に向かせたいなどの欲求や甘える気持ちが出てきます。しゃべって自分の意思をうまく伝えられるようになるまでの年齢の子や言葉だけでは周囲が反応してくれないと判断した場合では泣くのが一番の手段だと子どもはよく理解しています。誰も泣く子には勝てないのです。

2、抱きくせ
 よく「抱っこばかりしていると抱きぐせがつく」という言葉を耳にします。抱っこする時間は1日せいぜい数時間程度であり、赤ちゃんは抱きぐせがつくほど長時間抱いてもらってはいません。抱っこしている時には機嫌が良かったのに床に下ろすとぐずる赤ちゃんや抱っこしている時には寝ていたのに布団の上に寝かせようとすると泣き出す赤ちゃんがいます。一般にこのような状況が多いと「抱きぐせがついた」と表現します。赤ちゃんは抱っこされて守られ、安心できる気持ちの良い所から別な所に移されるわけです。文句の一つも言いたくなるのかもしれません。寝かされて暑いのかもしれません。濡れたオシメが寝かされると気持ち悪くなるのかもしれません。この赤ちゃんは抱っこが大好きなのかもしれません。抱っこの大好きな赤ちゃんには抱っこをしてあげて下さい。抱きぐせなどつくはずはありません。無視して下さい。ほずりをしたり、やさしく話かけたりして下さい。忙しくて抱っこできない場合でも、抱っこしてくれと泣いている赤ちゃんにほほずりをしたり、言葉を理解できるかどうかは別にして「忙しいから待っててね」など話かけてあげてはいかがでしょうか。その気持ちの雰囲気だけででも赤ちゃんは安心してくれるかもしれません。

3、おんぶと抱っこ
 以前は大人が子どもをおぶい紐で背中におぶう「おんぶ」ばかりでした。子は母親の背中にしっかりと触れているので保温効果が得られ、安定感があり、子どもには心の安定が得られます。また、親は両手が自由に使えて仕事が出来るという利点もありました。最近は「おんぶ」が少なくなり、前に抱っこする形の抱っこバンドが普及し、母親と対面した形で抱っこされる「抱っこ」が多くなりました。「抱っこ」では手は使いにくいのですがお互いの表情が見られて便利です。どちらにも利点がありますので、家庭の状況で選択して下さい。ただ、いずれにしても首が安定するまでは児の頭を親の腕にのせた抱っこです。

4、抱っこと成長
 赤ちゃんの時期を過ぎても子どもは親に抱っこしてもらいたがります。歩き疲れたなどということもありますが、親の愛情の確認や親の関心を自分のほうに向かせたい時、しんどくて甘えたい時によく「抱っこ」と訴えます。本人は赤ちゃんの時期にしてもらった抱っこの時間や回数だけでは物足らない、まだまだ不足していると感じているのかもしれません。弟や妹が生まれて、親の関心が少なくなった時など「赤ちゃん返り」という表現をしますが、特に抱っこをしてもらいたがります。どんな状況でも、どれほどの長い時間でも子どもが抱っこをしてもらいたがっていれば、可能な限り抱っこをしてあげて下さい。出来ないときには、子どもに「ごめんね」と抱っこ出来ない理由を子供の理解できる言葉で伝えて下さい。ただ、無理な時は無理と伝えるけじめは必要です。興味を他に向かせるのも方法です。どんなに抱っこをしてあげても甘やかすことにはなりません。甘えん坊な子どもにすることはありません。何かいやなことがあって泣いている時や道で転んで痛くて泣いている時などでは抱きしめて慰めてあげてください。落ち着きのない子、よくメソメソ泣く子、かんしゃくをおこしやすい子、赤ちゃん返りした子では特に抱っこが必要です。「こんなに愛しているよ」「こんなに心配しているよ」と気持ちを込めて抱いてあげて下さい。毎日、出来るだけ抱しめてあげて下さい。声をかけてあげて下さい。子どもとお話をしてあげて下さい。幼稚園児でも小学生になってからでも、抱っこが必要な子には抱っこをしてあげて下さい。抱っこは子どもの心を豊かにし、安定させます。



アタマジラミ

 ヒトに寄生するシラミは他の動物には寄生しませんし、他の動物に寄生するシラミもヒトには寄生しません。ヒトに寄生するシラミには、アタマジラミ、ケジラミ、コロモジラミの3種類があり、子どもたちの間で集団発生するのはアタマジラミです。アタマジラミの発生はコロモジラミとは異なり、決して不潔にしているからではなく、衛生状態の良い他の先進諸国の子どもたちにもよく発生しています。集団生活内でうつるのであり、家庭内で発生しているわけではありません。アタマジラミの治療や駆除は個人では容易ですが、いくら清潔にしていても、集団から完全に駆除することは不可能に近いと言われています。つまり、集団生活をしている限り、アタマジラミの発生を完全に予防することは不可能ということです。コロモジラミは入浴を長期間しない、下着を長期間着かえないなどの不潔な環境で寄生しやすく、着衣している衣類の襟首や袖口などの縫い目や折目に潜み、発しんチフスの原因となるRickettsia prowazekii、回帰熱の原因となるBorrelia recurrentis、塹壕熱の原因となるBartonella quintanaなどの病原体を媒介します。不潔にしていると発生するのはコロモジラミです。ケジラミは陰毛、腋毛に寄生し性行為などの直接接触でうつります。アタマジラミは、頭髪に寄生し、頭皮から吸血しますので、主に問題となるのは寄生部分の吸血にともなう「激しいかゆみ」と掻きすぎによる二次的な皮膚の炎症であり、それ以上の症状や病気を伴うことはまずありませんので神経質になるまでではないと思います。
 成虫は、約2〜4mm(雌で2〜3mm、雄で2mm程度)で白っぽい灰色ですが、吸血後は血の色で赤くなり、時間の経過で黒っぽい灰色に見えます。またシラミは吸血のため毛根の近くに生息しています。ノミと異なり飛んだり跳ねたりはしませんので、伝染力は強くありません。

1、卵
 アタマジラミの卵は、約7日間で孵化して幼虫になります。幼虫から成虫になるまでは約10日間かかり、成虫は約1か月間生きますが、この間、1日に5〜8個の卵を産みます。卵は、髪の生え際に産み付けられ、約0.3〜0.5mmの楕円形で白っぽい灰色に見えます。頭髪に点々と卵を固着させて産み付けますので比較的容易に発見できます。生きた卵や卵のぬけがらはフケと見まちがいやすいのですが、毛にこびりついていて取りにくいという特徴があります。また、生きた卵の大半は頭皮から6mm以内にあります。頭皮付近よりも低い温度では孵化出来ないため、頭皮から1cm以上離れて付着した卵は孵化出来る割合が低いですし、卵が落下しても孵化出来ません。卵は約1週間で孵化し、吸血を繰り返して3回脱皮後に成虫になります。1〜2匹のアタマジラミ幼虫や成虫に寄生された場合、産卵を繰り返して徐々に幼虫の数が増加し、それらが成虫になって交尾し、さらに産卵を繰り返す。このように、ある程度の数になるまでに1か月ほどかかると想定されています。アタマジラミは髪の毛から脱落すると、吸血出来ませんので7時間〜3日間程度で死んでしまいます。

2、症状
 1〜2匹の幼虫または成虫が寄生し始めた段階では、ほとんど掻痒感を伴わないのですが、3〜4週間経過して個体数が増加する頃に激しい痒みに襲われます。これは、シラミが吸血時に注入する微量な唾液に対して産生されたIgE抗体が関係していると考えられています。かゆみは吸血された皮膚周囲に限局しますが、イライラ感や不眠を生じ、精神的な負担を引き起こすこともあります。子どもが無意識に頭を掻いている場合は感染していることも疑って頭をよく調べてください。また、子ども一人でシャンプーさせずに、時々は点検も兼ねて、大人がしっかりと、髪を洗ってあげて下さい。

3、伝染力
 アタマジラミは直接髪の毛と毛が接触してこすれあった時にうつりやすいのですが、帽子やタオル等の共用でも幼虫や成虫が付着して感染します。幼児や小学校低学年児童は頭をくっつけあって遊ぶことが多いためにこの年齢での感染率が高くなっています。プールや銭湯でうつるという話がありますが、これは水やお湯にシラミが浮いていてうつるのではなく、脱衣かごを共用したり、バスタオルを他の人と使いまわしたり、ヘアブラシ等の共同使用によってうつるケースが考えられます。水の中では、シラミはしっかりと毛につかまる習性があるため、湯船内でうつることはまずないと考えてよいと思います。

4、駆除方法
 駆除対策としては頭に寄生しているアタマジラミを直接駆除するとともに、アタマジラミが付着している可能性がある頭が触れた布類の洗濯などを行う必要があります。洗濯出来るものは、洗濯前に60℃以上のお湯に5分間以上浸けてから洗濯してください。アイロンや衣類乾燥機でも効果があります。洗濯出来ないものは、ポリ袋に入れて封をして、卵が孵化する期間も考慮して2週間放置します。人から離れたシラミは血を吸えないので死んでしまいます。また、シラミが落ちる可能性のある所は掃除機をこまめにかけて下さい。
 直接駆除する方法としてはアタマジラミ専用の目の細かい櫛を使い卵を毛髪から取り除き、薬剤の入ったシャンプー(スミスリンシャンプーやシラミ駆除シャンプー)で幼虫や成虫を駆除します。櫛により頭皮から落とした卵は孵化出来ませんので死んでしまいます。櫛はシラミ駆除用のシャンプーに付属品として付いている櫛から微弱電流を流してシラミを殺すタイプの櫛まで数種類の櫛が販売されています。卵は毛髪に強く付着しているため、シャンプーで頭を洗っても卵は取れません。また、シラミ用薬剤入りシャンプーは幼虫や成虫を殺しますが、卵自体は固い殻に覆われていますので、これらのシャンプーで頭を洗っても毛髪に付着している卵の30%は生き残る可能性があるといわれています。そのため、シャンプーを1日1回、3日に1度ずつ3〜4回繰り返して、卵から孵った幼虫を退治します。通常2週間で退治できます。ただ、駆除できたと思っても、最低1週間は毎日、頭皮や髪の毛をチェックしてください。アタマシラミを発見した場合は家族にも、感染している可能性が高いので、よく調べて、感染していたら同時に駆除する必要があります。
 どこまでの駆除対策をとるかは個人の考え方によりますし、実施しなければならないものではありませんが、再度寄生されるのが嫌で我慢できない人は枕カバー、シーツ、タオル等は毎日交換し、60℃で5分間以上の熱処理をして下さい。また、寝室、居間等は毎日掃除機をかけて下さい。頭を拭いたタオルは使いまわさずに洗濯する、ブラシや櫛は自分専用のものを使う、帽子やヘルメットを貸し借りしないなどが挙げられます。保育園などの施設で使用している衣類や寝具などは定期的に持ち帰って洗濯して下さい。

5、通園、通学
 アタマジラミは保育園、幼稚園、学校ではしばしば問題視されますが、文部科学省の学校保健法施行規則の一部改正(1999年4月)では「通常出席停止の必要はないと考えられる伝染病」とされています。アタマジラミの感染がみられる小児は数週間前から感染していた可能性が高く、短期間の出席停止をしても感染が減る可能性が低いことがその主な理由です。アタマジラミは健康上の危険はなく、衛生不良を示すものではなく、何らかの疾病を拡散させるものでもありません。子どもたちが集団生活をする上でアタマジラミを根絶することは不可能であり、がうつることは避けれません。しかし、不潔なイメージがありますので、「〜ちゃんからうつった」、「不潔」や「きもい」、「近づくな」などのいじめや仲間外れなどが問題となる場合も多くありますので、アタマジラミについての正確な情報の共有が必要と思います。




イオン飲料水と子ども

 体の表面などから失われる水分量(不感蒸泄量)や1日尿量は1Kg体重あたり成人に比べ乳児で2.5〜3倍、小学生で1.5倍であり、子どもでは水分必要量は成人に比べ多く必要とします。子どもは活発に動きますので汗もかきやすいですし、風邪などで発熱することも多く、さらに水分必要量が増すことになります。つまり子どもでは水分摂取量が少なくなると脱水になりやすいのです。特に自分で積極的に水分摂取が出来ない乳幼児は脱水状態になりやすいといえます。
 脱水症例は唇が乾いたり、尿量が減少するなどの軽症例がほとんどですが、重症例では意識混濁、痙攣、ショック状態などを引き起こし死亡にいたることもあり、脱水症を予防することは重要です。

 失われた水分や塩分を補給する方法のうち、経口摂取が不可能な特殊な場合では点滴が必要ですが、点滴は痛いですし、病院に行く必要があり、出来れば避けたい方法です。水分の経口摂取が可能な場合、飲み物としてはぬるめのお茶やお白湯で良いのですが、これらには塩分は含まれておりませんので、これらのみでは下痢や嘔吐、汗で失われた塩分の補給は出来ません。乳幼児用のイオン飲料水はそういった意味で、水分と塩分が入っていて、下痢の悪化を防いで水分の吸収が良いように低浸透圧に調節され、塩分の吸収も良くなるように糖分が添加されています(ナトリウムはブドウ糖とともに小腸の細胞から吸収される:ブドウ糖との共輸送)。スポーツ飲料や果汁は子どもの脱水治療の飲料としては浸透圧が高く、塩分のバランスが適しているとはいえません。

 ただ、子ども、特に乳幼児の水分補給に適しているイオン飲料水は嘔吐下痢、発熱などでの脱水症に予防や軽度の脱水症の治療に用いれば非常に有用ですが、日常の生活や入浴後などに使用する必要はありません。お白湯やお茶で十分であり、イオン飲料水はあくまで病気のときに使用する飲料です。子どもにとって味覚感覚を育てていく大事なときであり、甘味への嗜好が強いときにお茶代わりに飲むことで、甘味嗜好が習慣化する可能性が指摘されています。糖質が含まれていますので多く飲めば肥満の原因となりますし、虫歯の原因ともなります。

 イオン飲料水のダラダラ飲みによる小児での虫歯の発生が問題となってきています。虫歯の3大原因は糖、弱い歯の質、虫歯菌とされ、糖は摂り過ぎないようにし、歯の質の弱さにはフッ素を塗って歯を強くさせます。虫歯菌に対しては歯磨きをして虫歯菌の巣食う歯垢を取り除くという予防策が必要です。

 食事をする毎に目に見えないレベルで歯の表面は溶けています(脱灰)が、食べていない間に唾液の緩衝作用で口内が酸性から中性に戻りますので、食事中に溶けた歯に唾液中のカルシウムやリンが再度取り込まれ、元の歯の状態に戻ります(再石灰化)。溶けている時間が戻ろうとしている時間より短ければ虫歯にはなりませんが、溶けている時間のほうが長いと虫歯になります。イオン飲料水をダラダラ飲むというのは、長時間口腔内に糖分が存在し、歯が溶けている時間が長いということを意味しますので、虫歯が出来やすくなります。

 また、口腔内のpHが5.4以下では歯のエナメル質の脱灰が起こり虫歯になりやすいといわれておりますが、イオン飲料水(一部はpHを5.5に調節しているものもある)やスポーツドリンク、果汁、乳酸菌飲料、コーラなどはpH3〜4と酸性で脱灰が起こりやすいpHです。夜寝る前や夜中に飲ませるとこの傾向が助長されます。

対策として
1、イオン飲料の使用は嘔吐や下痢などの病気や極端に汗をかいたときなどに限り用いる。
2、嘔吐や下痢で使用しても症状が軽快すれば中止し、その後はお茶を飲ませる。
3、イオン飲料水を水の代わりに使用しない。入浴後は必要であれば白湯やお茶を飲ませる。
4、寝る前には歯を磨く。寝る前に飲ませる飲料はお茶にする。
5、大きな子の場合はペットボトルを持ち歩く習慣を止め、ペットボトルを利用する場合はお茶か水にする。運動で汗をかくときはイオン飲料水を薄めて飲み、運動後はお茶か水を飲む。



インフルエンザ

インフルエンザは毎年11月から3月まで日本国内に蔓延し、高熱、関節痛、筋肉痛、頭痛、咳など多彩な症状を示します。特に熱は40℃に上昇し、長ければ7日ほど続きます。咳などを介して伝播し流行します。年少児では脳炎・脳症が、高齢者では肺炎が問題となります。

1、インフルエンザウイルス
 A型、B型、C型の3つのタイプに分類されますが、流行して病気を引きおこすのはA型とB型ウイルスです。
 このウイルスは大小様々な変化を毎年のようにおこします。麻疹(はしか)や風疹(3日はしか)などのウイルスはほとんど変化せず、一度罹患すれば次は感染しませんが、インフルエンザウイルスは変化をしますので毎年のように感染します。従って、麻疹や風疹のワクチンは1回接種すれば何年も効果がありますが、インフルエンザの場合は毎年ワクチンを接種しなければなりません。

2、症状
 ウイルスと接触してから1〜3日後に症状が出ます。38〜40℃が2〜7日間続きます。一旦、熱が下がったように見えた後再度上がることが時々あります。「かぜ」といわれる他のウイルスによる呼吸器感染症と比べると寒気、関節痛、筋肉痛、咳が強く出ます。
 12月から3月に毎年流行し、他人への伝播力は強力です。初期はA型が、遅くなるにつれB型が主流となるのが一般的です。同じA型でも頻繁に変化を繰り返していますので、数種類のA型とB型といったように、一冬で数回インフルエンザを発症することもあります。

3、小児での問題
1)熱性けいれん
 熱が40℃ほど数日間出るため熱性けいれんの生じやすい子どもに有熱時けいれんが生じやすくなります。生じやすいとわかっていればセルシン(抗けいれん剤)の座薬による予防法があります。

2)解熱剤の使用
 ジクロフェナクナトリウム(ボルタレンなど)という解熱剤を使用した場合に脳炎・脳症が生じやすいと報告されています。解熱剤は一時的に(数時間)熱を下げる作用はありますが、病気そのものを治す力はありません。熱のため機嫌が悪く寝てくれないなど本人も家族も困るような時に限定してアセトアミノフェンなどの弱い薬を少量使用するなどにとどめるべきと考えます。
3)脳炎・脳症

 意識を失い脳に後遺症を残しやすい病気です。小児、特に3歳までの乳幼児に生じやすいのですが、なぜ発症するのか不明です。一部の解熱剤の使用が誘因となる可能性がいわれていますが、解熱剤を使用しなくてもなりますし、発熱と同じ日や翌日に脳炎・脳症になっています(脳炎・脳症の項参照)。高熱だから脳炎・脳症になるわけではありませんし、病気にかかりやすい子がなりやすいわけではありません。脳炎・脳症になりやすい原因はわかっていません。また、発熱してからでは予防は不可能です。あたりまえのことですが、インフルエンザに罹患しないようにするのが最も有効です。

4)ワクチン
 このウイルスは毎年変化をしますので毎年ワクチンを接種する必要があります。
 接種回数が1回なのか2回必要かということについては、その子の状況によって異なります。乳幼児は2回接種をお勧めします。小学生以上で毎年インフルエンザワクチンを接種している人やこの数年間に何回もインフルエンザにかかっている人は1回でも有効と考えます。

5)薬
 インフルエンザの治療薬は3種類です。ただ、これらの薬はインフルエンザウイルスの増殖を抑える薬ですので、体内ですでに増えてしまえば効果がありません。発熱出現後40時間以内(2日以内)の使用でなければ効かないとされています。なるべく早期に服用してウイルスの増やさないようにするのが肝心です。幻覚、幻聴、異常行動の出現がインフルエンザ自体や高い発熱時、治療薬服用時でごく稀にですが指摘されています。48時間程度は子どもの行動に注意して下さい。



インフルエンザ菌と肺炎球菌

 健康な人のほとんどの皮膚やのどに常に存在し、普段は人に感染症を発症させない細菌を常在菌と言います。ただ、こういった菌でも人の体調が悪くなったり、風邪や薬などで抵抗力が低下した場合には感染症を引き起こすこともあります。特に乳幼児では細菌に対する抵抗力が弱く、常在菌といえども感染症を引き起こすことが稀にあります。その代表と言える細菌がインフルエンザ菌と肺炎球菌です。この2つの菌は乳幼児ののどに常在しており、普段は感染症を発症させませんが、何らかの要因でこれらの菌が血中に入ると咽頭炎、中耳炎、気管支炎、髄膜炎などを発症させます。この2つの菌は乳幼児に重篤な後遺症を残す細菌性髄膜炎の主な原因菌ですが、生後2か月から予防接種が可能であり、ワクチン接種でその発生を減らせることが出来ます。

1、インフルエンザ菌
 インフルエンザ菌は健康な子供ののどに存在している常在菌です。莢膜(細菌の周りを覆う堅い殻)の有無により莢膜型と無莢膜型に分類され、莢膜型はさらにa〜fの6型に分類されます。莢膜があると生体の防御機構に抵抗する力が強いといわれ、その中でもb型は特に病原性が強く、全身感染症の起炎菌として重要です。

 無莢膜型:粘膜局所感染を起こし、小児の気道感染症の3大起炎菌の1つ(残り2つは肺炎球菌とモラクセラ・カタラーリス)。中耳炎、副鼻腔炎、気管支炎、肺炎の原因菌

 莢膜型:直接血中に侵入して全身に感染します(ほとんどごb型)。気道感染症は少ない。髄膜炎、咽頭蓋炎、肺炎の原因菌。

 Hib:乳幼児の2〜3%で鼻腔や咽頭に常在菌として存在します。 集団保育では36%の子供ののどに存在する常在菌との報告があります。

 インフルエンザ菌が原因で発症する中耳炎の5〜10%がHibが原因であり、のこりは無莢膜型が原因です。

髄膜炎の発生は5歳以下
 Hib(インフルエンザ菌b型)は、しばしばHibを持っている人(保菌者)の咳、くしゃみとともに、鼻やのどから侵入してきます。そして鼻、のどにとどまり、そこで繁殖します。しかし通常は、全身に影響を与えることはありません。

2、肺炎球菌
 肺炎球菌も健康な子供ののどに存在する常在勤で、自然消滅もします。稀に咽頭炎、中耳炎、気管支炎、肺炎、髄膜炎を起こします。幼児、高齢者が多く罹患します。
 周囲を莢膜におおわれた菌のため、人間の免疫が攻撃しにくい構造をしています。なかでも小さい子ども、特に赤ちゃんのうちは、まだこの細菌に対する抵抗力がありませんので、細菌性髄膜炎など症状の重い病気を稀におこします。

3、小児の細菌性髄膜炎
 髄膜炎の初期症状は、発熱や嘔吐、不機嫌、けいれんなどで、風邪など他の病気の症状と似ているため早期の診断が非常に難しく、重症化して治療が困難になることも稀ではありません。髄膜炎にかかると、治療を受けても約5%の乳幼児が死亡し、約30%に知能障害や聴力障害、てんかんなどの後遺症が残ります。0歳代の乳児が53%と最も多く、1歳以下が70%以上を占めています。原因菌としてはHibが60%、肺炎球菌が20%です。
 これら髄膜炎を予防するために生後2か月からHibワクチンと小児用肺炎球菌ワクチンが接種出来ます。年齢によりワクチン効果の発現に差があり、接種開始年齢で接種回数が異なります。年齢制限はありますが接種料金の公費支援もあります。これらのワクチンの副反応は特徴的なものは無く、一般のワクチンと一緒で接種部位の発赤や腫脹です。赤ちゃんの接種するワクチン数が増加しています。3種混合ワクチン、Hibワクチン、小児肺炎球菌ワクチンの同時接種も可能で、同時接種してもワクチンの有効性や副反応の出現に差はありません。




嘔吐下痢症

 下痢は上下水道の整備やごみの集配などの生活環境や子どもの食事や栄養の改善の結果、下痢の発症が減少し、発症しても軽症で治ることが多くなりました。ただ、冬に流行するウイルス性の嘔吐下痢症は嘔吐物が感染源になるために流行しやすく、乳幼児では脱水を伴いやすいという特徴がありますので要注意の疾患です。

1、原因
 ロタウイルスやノロウイルス、腸管アデノウイルスが主な原因です。ロタウイルスやノロウイルスは毎年冬季に流行し、腸管アデノウイルスは年間を通じて発症します。各々にはタイプが多くあり、毎年かかりますし、一冬に2回以上かかることもあります。
 患者の吐物や下痢便中にウイルスがあります。嘔吐下痢の感染経路はこれらを触って、口の中にウイルスが入ることによる感染が主です。これらを触って感染しますので、触った後は手洗いを十分する必要があります。また、ノロウイルスは河口で育つ2枚貝(主にカキ)の中に濃縮されるという性質がありますので、2枚貝(生カキ)を生または半生で食べたり、生の貝を触った手で生野菜などを調理することで感染させるという食中毒という形での発症もあります。

2、症状
 症状は病名が示すように頻回の嘔吐と下痢です。ロタウイルスは乳幼児、特に6か月〜2歳に多くみられ、成人での発症は少ないのですが、ノロウイルスは全年齢に認められます。腸管アデノウイルスでは乳幼児が多く認められます。潜伏期間はノロウイルスで1〜2日、ロタウイルスで1〜3日です。腸管アデノウイルスは2〜3日です。発熱する子は多くありませんが、微熱が1日程度認められることもあります。嘔吐はロタウイルスでは頻回ですが、ノロウイルスでは数回程度で軽いことが多く、共に半日から丸1日で治まります。腸管アデノウイルスも嘔吐症状は軽度で、嘔吐が出現しない場合も多いとされています。
 下痢はノロウイルスでは2〜3日、ロタウイルスや腸管アデノウイルスでは4〜5日間続きます。淡黄色の便になることが多いのですが、特にロタウイルスでは、胆汁の排泄が不良となりやすいため、白っぽいクリーム色の水様便が特徴です。腸管アデノウイルスによる症状は軽症のことが多く、ノロウイルスよりもロタウイルスのほうが症状が強く出る傾向があります。
 感染しても発症しない場合や、軽度の腹痛や軟便程度の症状で終わることもあります。

3、治療
 下痢は体に害のあるものを早く出すようにしている身体の防御反応の可能性が高いことを考慮して、乳幼児では薬で無理に下痢を止めないのが一般的です。整腸剤で腸の働きやバランスを良くして腸の回復を待ちます。嘔吐に対しては、脱水症の予防と周囲への感染拡大防止を目的に嘔吐を抑える薬を使用することもあります。
 嘔吐や下痢がひどく、口の中が渇いてきたり、ぐったりするなど脱水が疑われる場合には点滴による水分補給が必要です。
 頻回の下痢ではオムツかぶれにすぐになります。お尻を出来るだけ頻回に洗って乾かして下さい。ひどくなる場合は洗った後で軟膏を使用して下さい。
 嘔吐下痢症が長く続くと電解質(ナトリウム、カリウムなど)が失われ、糖分も不足しますので、お茶や水のみの補給では体調異常が生じます。お茶、お水以外にもイオン飲料水を含めた水分補給をして下さい。

4、食事の与え方
 初期の嘔吐や嘔気のある間だけは食事を止め(食べても吐いてしまいます)、ごく少量(コップ1/4〜1/3程度の嘔吐しない量)のイオン飲料水やお茶を頻回に与えて下さい。その後徐々に1回量を増やしていくようにします。胃が膨れるほど飲むと嘔吐します。少量の水分が胃から徐々に吸収されるのを待ちます。イオン飲料水が十分飲めるようになったら出来るだけ早く消化の良い食事を開始して下さい。
 下痢が続きますので、牛乳や乳糖を多く含むお菓子などは止め、ジュースなども中止し、お茶、湯冷まし、乳児用(年齢に応じた)イオン飲料水を飲ませて下さい。下痢で腸の粘膜が傷害されると、乳糖(牛乳などに含まれる糖)などの吸収が悪くなり、乳糖や糖分の高い濃度の飲み物や食べ物は下痢の回復を悪くします。離乳食や食事は消化が良くない食物以外は欲しがるだけ与えることを心がけて下さい。食事をすることは腸の回復を助けます。

5、予防
 感染者の嘔吐物や下痢便の中にウイルスが存在します。この病気では嘔気は急激に来るため至る所で嘔吐します。特に嘔吐の場合は嘔吐物が周囲に飛び散りますので、それに伴いウイルスも飛び散ります。また、嘔吐物が乾燥するとウイルスは空気中に漂いますので、その空気中のウイルスを吸い込んで発症する空気感染も可能性があります。便中には感染後1週間程度の期間はウイルスが存在すると言われます。嘔吐物や便に触った後は石鹸を使って流水で手洗いを丁寧にしてください(水道の蛇口から出る水で洗えば手に付着したウイルスは減少しますので感染する可能性は激減します)。嘔吐物が周囲への伝染の原因となりやすいですので、なるべく嘔吐させないような工夫が重要です。
 ウイルスは塩素と熱により消失します。塩素系の消毒薬や漂白剤(ミルトン、キッチンハイターなど)、85℃で1分間以上が有効とされています(65℃程度では30分でも効果はありません)。アルコールなどは有効性がほとんどありません。手にすり込むタイプの消毒剤や消毒薬のついた紙で拭くのではほとんど効果がありません。嘔吐があったためにウイルスが空気中に飛び散っているような場合にはうがいも有用です。 



オムツかぶれ

 オムツをしている間は必発です。オムツの中は蒸れますのでどうしてもオムツかぶれが生じます。数時間で悪くなったりします。オムツをこまめに取り替えれば良いのですが、それも限界があります。紙おむつは高価です。オムツをしている間は完全に治ることはない、仕方がないことだと考え、子どもがなるべく快適に過ごせるように、夜も良く寝てくれるように手入れをしましょう。
 入浴の際はきつくこすらないで、ベビー石鹸などを使ってやさしく洗ってあげてください。きれいにしようとしてきつくこすることは新しく出来てきた皮膚を傷つける可能性があります。皮膚の敏感な子どもには手で優しく洗ってあげるのが効果的です。入浴後はよく乾かしてからオムツをしてあげてください。忙しい時には遠くからドライヤー(やけどに注意してください)で乾かすのも一つの方法です。
 オムツかぶれがひどい場合には1日数回お尻を洗ってあげましょう。ぬるま湯に浸したガーゼなどで拭いてあげるのも良いのですが、直接洗う方法には及びません。バケツの中でも、たらいの中でも、シャワーででもかまいません。ひどい時はこまめに1日数回洗い、良くなれば手を抜いて楽をして下さい。
 塗り薬はたくさんの種類がありますが、洗っても治りにくい場合などに限定してください。塗り薬はお尻をきれいにしてから使用してください。シッカロールなどの使用も色々いわれていますが、ごく薄くであれば使うことは悪くないと思います。こういった塗薬は常備的に家に置いておくことも必要と思います。悪くなりそうだなと感じたら使用することも考慮してください。楽です。



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