夜尿症(おねしょ)

夜尿(おねしょ)は幼児期では全員が経験していることですが、年齢が大きくなっていくにつれてしなくなってきます。夜尿をしたからといって健康を害することはありませんし、家族以外に迷惑をかけることもありません。ただ、雨の日や梅雨の時期では布団が乾かず困ります。
 4歳、5歳と年齢が上になっていくにつれ親の心配の種になってきます。何歳頃から心配したほうがいいのでしょうか。日本小児保健協会のデータによりますと、夜尿をまだしている子は4歳台で25%もありますし、毎日夜尿をしている子も約3%と100人に3人はおります。夜尿をしている子供は意外と多いのです。あせらずゆっくり見守ってあげてください。
 また、一旦なくなっていた夜尿が妹や弟が生まれたり、学校や家庭でのストレスで再度出現する場合もありますし、スポーツのクラブ活動で水分を多量に摂り、疲れて寝てしまった時などにもする場合があります。怒らず、ストレスの原因を探してあげて下さい。

1、夜間の排尿の自立過程
 年齢とともに膀胱にためられる尿量は多くなっていきます。そして、夜間に作られる尿量も徐々に少なくなっていきます。尿量が減り膀胱が大きくなると当然おしっこの回数が減ることになります。つまり、膀胱容量の増大と睡眠リズムの安定による夜間尿量の減少という年齢に伴う発達により夜尿が徐々に少なくなっていきます。

2、夜尿のタイプ
 一般的に@ぐっしょり型、Aちょっぴり型、B混合型に分けられています。

1)ぐっしょり型
夜間睡眠中の尿の量が多すぎるため夜尿となるタイプです。睡眠中は尿量を減少させる作用のある抗利尿ホルモン(ADH;尿を濃縮して体の水分をコントロールするホルモン)がたくさん分泌されるため、日中に比し尿量が少なくなります。昼夜関係なく眠っていた乳児も、生後6か月頃には主な睡眠は夜間になってきます。5、6歳になるとお昼寝をしなくなり、成人と同じ夜だけ眠る睡眠リズムとなります。このように睡眠レベルが安定するとADHの分泌も多くなり夜間尿量も減少します。このように年齢とともに夜間睡眠中の尿量は減少していくのですが、このリズムが安定していないのがこのタイプです。もう少し年齢が大きくなると自然に自立していきます。

2)ちょっぴり型
 膀胱の尿をためられる量が少なくて夜中に十分な蓄尿ができず漏らしてしまうタイプです。膀胱に尿が貯まり、膀胱壁に圧力がかかると尿意を感じ排尿しますが、年齢とともに尿意を感じても意識的にも無意識的にも排尿を抑制する能力を獲得していきます。そして、尿意が抑制できるようになると膀胱の蓄積できる尿量が増大してゆき、夜尿はなくなっていきます。昼間に尿意を抑制して膀胱容量を大きくする訓練が効果的です。
3)混合型
 夜間の尿量も多く、膀胱の容量も少ないタイプです。問題点が2つあり、自立には時間がかかります。

2、発達の指標
 昼間の尿回数が減少し、1回に出る尿量が多くなっていく(膀胱容量の増大)、夜尿回数が1夜に数回から1回に減少してくる(夜間の尿量の減少)、夜尿する時刻が寝入りばなから明け方になっていくことで改善していると判断します。

3、季節変動
 夜尿は冬に悪化し夏に改善します。寒冷刺激が膀胱の容量を縮小しますし、抹消血管が収縮して腎の血流を増加しますので尿量を増加します。汗をかく量の違いもあるとおもいます。

4、生活指導
 大きくまとめると@しからず、Aあせらず、B起こさずです。
1)しからず
 無意識に行っているので、しかられても本人はどうしようもないのです。

2)あせらず
 長期戦です。未熟な機能がゆっくり発達してくるのを待つ必要があります。あせってもどうしようもありません。夕方からの水分制限、日中の排尿の抑制訓練、薬物療法などがあります。小児科専門医にご相談下さい。

3)起こさず
 夜尿を防止する方法の1つとして、夜尿のおこりそうな時刻に起こして排尿させるという方法は一見良いように思えますが、こういった習慣によってその時刻になると無意識に排尿するといった習慣がつく可能性があります。また、夜間の膀胱容量も大きくなりません。睡眠リズムを崩しますので、熟睡に影響しますし、ADHの分泌リズムも崩します。睡眠リズムの乱れは他のホルモン分泌などにも影響し、身長を含む身体発育への悪影響も懸念されます。

5、対策
 機能の発達は待つしかないのですが、夜間の尿量の減少や排尿抑制機能を高めることは可能です。
1)水分制限
 飲んだ水分は3、4時間で尿になってしまいます。少なくとも入眠5、6時間前からは水分の制限をしましょう。喘息などで水分制限が困難な場合は主治医と相談してください。夕食は早めに食べ、夕食や夕食後の水分は極力少なくする必要があります。夕食の味噌汁やお吸い物までも制限する場合もあります。水分制限が不十分では色々な対策も薬も効きません。

2)塩分制限
 食塩に含まれるナトリウムは水と一緒に尿中に排泄されますので、塩分をたくさん摂ると尿量が増加しますし、のどが渇きますので水分摂取が増えることになります。スナック菓子なども塩分が多いです。夕方からの食事やお菓子では考慮して下さい。将来の成人病予防としても薄味の食事はお勧めです。

3)排尿抑制
 膀胱の尿をためる力が大きければおしっこに行く回数が減り、夜尿も少なくなるはずです。腎臓や尿管に異常がある場合を除いて、昼間に尿意があっても可能な限り我慢して膀胱の大きさを大きくすることが有効です。早め早めにトイレに行かせる親の気持ちは理解できますが、膀胱容量が十分に増大しませんし、尿意がなくても排尿する習慣がつき尿意に対し我慢することが経験的に覚えられないというマイナス面が強すぎます。

4)寒さ対策
 寒い時期に夜尿が増えます。暖房を効かせすぎたり寝巻きを着せすぎることは困りますが、寝具を暖める(敷き毛布を弱く使用するなど)、入浴を遅めにするなど少し工夫をして下さい。

5)薬物療法
 上記の対応を行っても効果が得られない場合や、年齢が大きい場合は平行して薬を使用します。膀胱の容量を増大させる作用のある薬剤や尿量を減らす薬剤が用いられます。
 稀ですが、病気のこともあります。治りにくい場合や年齢にもよりますが昼間のお漏らしを伴う場合などは小児科専門医にご相談下さい。




溶連菌

 A群β溶血性連鎖球菌(溶連菌)という細菌は、咽頭炎、扁桃炎、中耳炎、副鼻腔炎、肛門周囲膿瘍、膣炎、関節炎、骨髄炎、髄膜炎、猩紅熱などのほか劇症型溶連菌感染症、膿痂疹、丹毒、リュウマチ熱、急性糸球体腎炎などを発症させ、食中毒もおこします。小児ではリューマチ熱や腎炎を引き起こし、心臓や腎臓に障害を与えますので、溶連菌を確実に診断し、適切に治療することが重要です。小児科専門医の能力が発揮されるところです。

1、 溶連菌について
咽頭炎の細菌性原因菌としては一般的ですが、リュウマチ熱や急性糸球体腎炎などの続発症を起こしうるという点で非常に重要な菌です。また、この菌は100以上の型があるため何度でも感染します。

2、 咽頭炎、扁桃炎
 健康な子供でも15〜30%の子どもが咽頭に菌を持っていますがなにも症状は出ません。この菌の存在自体が悪いことではありませんが、時に咽頭に炎症を起こすと咽頭炎、扁桃炎となります。
 症状は3歳未満とそれ以上で差があり、3歳未満では咽頭は軽度の発赤程度で特徴的所見はなく、症状も咳や鼻水といった感冒様症状が主です。3歳を越える頃からは咽頭の発赤は強くなり、点状出血斑を伴ったり、扁桃にも白苔が斑状に出現するなど特徴的な所見となります。舌も白苺舌や赤苺舌といわれ、表面がイチゴみたいにざらざらとなります。皮膚にも細かい紅色の発疹が全身に出ることがあります(しょう紅熱)。

3、 膿痂疹、丹毒
 伝染性膿痂疹(とびひ)は黄色ブドウ球菌による皮膚感染症が有名ですが溶連菌による膿痂疹も少ないですが存在し、急性糸球体腎炎を生じますので要注意です。この菌による場合は膿疱や痂皮が厚く堆積する状態が特徴的です。
 丹毒は皮膚表層への感染で、かなり広い範囲に赤く腫れ、痛みがあります。

4、 急性糸球体腎炎
 咽頭炎や皮膚感染症後1〜3週に血尿、蛋白尿、高血圧が出現します。尿の異常は1年以内に約70%が消失しますが、数か月の入院が必要です。

5、 リュウマチ熱
 心臓、関節、神経などがやられます。咽頭炎発症後1〜5週に生じます。再発しやすく、再発する毎に心臓障害が重くなりますので再発防止が重要で抗生剤を長期使用します。

6、 小舞踏病
 感染後2〜7か月に発症します。最初は不器用、物を落とす、情緒不安定として出現し、次いで不規則な早い動きが両上肢に出現してきますが、2〜3か月で消失します。

7、治療
 ほとんどの抗生物質が有効です。ただ、少なくとも5日間は服用しなければなりませんし、早期に診断し治療することが重要です。腎炎発症チェックなども必要ですので小児科専門医を受診しましょう。

8、登園、登校について
 適切な抗生剤治療が行われれば24時間以内に伝染力はなくなるため、登園・登校は本人の健康状態により可能です。



夜泣き

 夜のテレビや室内遊びの充実、親が夜遅くまで起きているなどの影響により子供の入眠時刻が夜の10時、11時と遅くなってきています。睡眠は脳や体を休息させるためのものですので、十分な睡眠は健康維持のために重要です。
 生後すぐの赤ちゃんは昼も夜も関係なしに目覚めたり眠ったりと覚醒と睡眠を繰り返しています。生後4か月頃から昼間は起きて夜は眠るというリズムに移行していきます。この頃から夜の眠りは長くなり、昼間は昼寝といった短時間の睡眠の形となります。昼寝がなくなるのは5歳以降とされていますが、大きくなっても昼寝を必要とする子はいます。
 この睡眠のリズム、夜昼の区別に重要なのは光と言われています。朝の光の刺激を受けると体は覚醒状態となり、朝の光は生活のメリハリをつけるのに役立ちます。また、昼間に適度な運動をした疲れも睡眠には重要です。昼寝は乳幼児には必要ですが、これが長くなると夜に眠ってくれません。大人や大きな子供では昼間に仕事や学校などがあり、夜に眠れないとしんどくなりますが、乳幼児では眠りたいときに眠り、起きたいときに起き、お腹がすいた時に食べるということでなんら問題がありません。大人と子供の生活リズムのズレから夜泣きは生じるのです。子供が大きくなり、大人の生活リズムに近づくと夜泣きは自然になくなります。大きくなれば自然になくなるのです。それまで我慢です。夜中におっぱいを欲しがれば与えて下さい。夜中に泣けば抱っこしてあやしてあげて下さい。一晩に2、3回泣くということも稀ではありません。
 6か月を過ぎて知恵が付き始めれば眠りが浅くなったときにお母さんを探しますし、昼間の興奮の影響が夜に出てくることも多いです。環境が変わっても興奮しますし、夜に目覚めて遊ぶ子もいます。
 夜泣きががひどいと「かん虫」といわれます。昼間はわがままを言うし、夜は夜泣きで寝てくれないなど親が困る状況を「かん虫」ということが多いのです。子供は子供のリズムがあり、やりたいこともあります。他人の迷惑など考えられる年ではありません。子供に自我が芽生えてきた証拠です。子供が精神的に成長している証拠です。親の思い道理にならない年齢になってきたのです。言い聞かしても理解できません。じっと我慢です。その内にいろいろ理解できるようになってきます。ひどい場合や親の生活が保たれないようなときは小児科専門医に相談して下さい。「かん虫切り」をする習慣もあります。すること自体は止めませんが、体に少しでも傷をつけるようなことは止めてください。この傷からB型肝炎が流行した地方があります。

対応
 大きくなって夜泣きがなくなるまでの辛抱です。気長に待つことが基本ですが、@朝に光(太陽光や室内の光)に当てる。A昼間はなるべく遊ばす。B昼寝は昼食後の早い時間帯で1〜2時間程度にするなども試みてください。
 親が子供の夜泣きのために睡眠不足となると大変です。睡眠不足となるようなときには小児科専門医に相談して下さい。薬もあります。癖になるものではありません。親が疲れるのは困ります。



予防接種

 誰しも病気にかかりたくはありません。まして自分の子供となるとなおさらです。他人にうつしやすい病気もあります。保育園、幼稚園、学校を休まなければなりません。病気にならないためには、@病気の原因となる細菌やウイルスが体内に入らないようにすれば確実に病気を予防できますが、これは子供を部屋に閉じ込めて、他の子供との接触を断ち切る必要があります。これではその子の精神的な発達が歪んでしまい、非現実的です。A第2の方法は抵抗力を前もってつけておいて、入ってきた細菌やウイルスに打ち勝つようにする予防接種(ワクチン)です。予防できる病気が限られていること、感染するかどうかわからない病気を前もって予防する必要があります。B第3の方法は感染、発病後に薬を使用する方法です。しかし、発病すれば重症になる病気や良い治療法のない病気もあります。こういったことから、予防できる病気は予防し、予防できない病気は発病後早期から治療を行うことが一般的と考えます。

1、予防接種の種類
 ウイルスに対するワクチン:麻疹、風疹、日本脳炎、ポリオ、水痘、おたふくかぜ、インフルエンザ、A型肝炎、B型肝炎、狂犬病、黄熱病など
 細菌に対するワクチン:破傷風、百日咳、ジフテリア、結核、肺炎球菌、コレラ、インフルエンザb菌、髄膜炎、ペスト、腸チフスなど

2、予防接種の効果
 前もって病気に対する抵抗力をつけておくことが出来るので、病気にかからない、または感染しても重症化を防ぐことが出来ます。「予防は治療に優る」ということです。個人の健康被害のみならず病気の流行を阻止し、社会への影響が少なくなり、医療費の抑制にも役立ちます。

1)自己防衛と他人
 病気を予防することは自分にとって非常にプラスですし、感染しませんので当然ですが他人にもうつしません。国によっては幼稚園や小学校入学時にワクチン接種の証明が必要で、規定のワクチンを全て済ましていないと入学を断られます。米国では病気の流行を阻止するため、予防接種を済ましていない子供は小学校に入れてくれません。1人が感染すると他人にうつし流行し、学校の責任問題になります。「他人にうつして迷惑をかけるような子供は入学するべからず」という国です。その国その国によって予防接種にたいする考え方は異なります。わが国はゆるい考え方の国です。

2)親の対応
 家庭でも兄弟姉妹間での感染、親に感染し親が重症になる、母親の妊娠中に子供が風疹にかかったため、妊娠中の子供の先天性風疹症候群について心配をしなければならないなどいろいろあります。子供のときにかかっていない親は子と共に予防接種をしておくのも1つの考え方です。

3、効果の持続
 予防接種の効果は実際に病気にかかって獲得する抵抗力に比較すると弱く、効果の持続性も短くなります。ただ、わが国ではそういった病気は毎年のように流行していますので、ワクチンで一旦抵抗力ができればその菌やウイルスと接触することで再度抵抗力が上昇し、長期間続きますので心配は不要です。

4、予防接種の回数と間隔
 ワクチンの種類には、生きている細菌やウイルス(製造過程で病原性を弱くしています)を接種する生ワクチンと殺している不活化ワクチンなどがあります。一般に生ワクチンは効果が得られやすいので、1回の接種で効果が得られますが、不活化ワクチンなどは効果が出にくいので数回の接種が必要です。3種混合ワクチンなどのように続けて3回同じワクチンをする場合のそれぞれの間隔は3〜4週間あけて接種することになっています。その後、1年後に接種するのはワクチンの抵抗力が何年も続くようにするためで、これがないと抵抗力はすぐに低下します。忘れないように接種してください。
 生ワクチン接種後は4週間をあけて他のワクチンをするとこになっており、それ以外のワクチンでは1週間たてば他のワクチン接種が可能です。

5、スケジュール通りにしなければならない?
 海外へ急に転居するなどの場合、一度に数種類のワクチン接種をすることがありますし、ワクチンの特徴を考えて接種すればスケジュールを多少変更することは可能です。また、保育園や幼稚園へ入園するまでの期間に全てを接種するなども対応できます。ただ、1回目と2回目の間隔が長すぎたり、追加ワクチンが早すぎたりすると効果が弱くなる場合もあります。小児科専門医にご相談下さい。

6、基礎疾患を持つ子供
 基礎疾患を持っている人は可能な限りワクチンを受けて下さい。ワクチン自体にも副反応はありますし、生ワクチンでは軽くかかったような症状が出ることもあります。しかし、実際に病気のかかると、元々持っている病気の上にその病気がプラスされ、大変です。主治医とよく相談して出来るだけのワクチン接種をお勧めします。

7、ワクチン接種を見合わせる場合
 その時点で発熱があったり、機嫌が非常に悪くなるような感染症にかかっている場合は症状が軽快するまで接種を延期します。麻疹や水痘などの後はワクチンの効果が弱くなる可能性があり、1か月ほどの間隔をあけて接種をお勧めします。
 ワクチンの液の成分に強いアレルギーがあるとわかっている人は接種を中止するか専門の小児科病院で相談の上接種して下さい。

 妊婦さんではポリオ、麻疹、風疹、水痘などの生ワクチン接種は避けてください。
 軽度の咳きや鼻水、下痢などでは接種可能です。出来るだけ早い時期に接種して下さい。




理想の子育て

 小児科の教科書、育児の本には生後何か月から寝返りをし、歩いて、言葉の発育は生後何か月から喃語(なんご:あーあー、ばぶばぶなど)、単語、2語文の出現は何か月、歯は何か月頃から出現などと記載されています。しかし、これは少し以前の一般的な発育・発達の平均であり、現在の赤ちゃん達が育っている環境はその後変化しています。また、早産や出生体重などの出生状況もその後の育児環境も個々で異なります。参考にはすべきですが、平均値のみで子供を評価することは避けるべきで、発育・発達の程度は子供一人一人異なっていて当然です。

 母乳育児は赤ちゃんにとっても、お母さんにとっても自然で良いことですが、母乳で育てられない状況の人もいます。祖父母と同居、兄弟が居る、早期から保育所に行っている、同年代の子供と遊べる環境にないなど家庭環境・育児環境も異なります。教科書や育児の本に書かれている子供と状況は異なることも多く、本と同じに育つわけではありませんし、同じにする必要もありません。また、各自個性を持っていますので個人差があって当然です。本に書かれている方法は自分の子にとって適した方法とは限りません。完全な子育てなどはなく、育児の本は教科書ではなく参考書でしかありません。仕事や家事の忙しさ、家族の状況、自分の体力など色々な状況の中での子育てです。育児の本に書かれている理想の子育ては現実的ではありません。現実に可能なベストの子育てが理想の子育てです。自信を持って下さい。

 親が必死になって子育てをしても、子供は親の思うように行動してくれませんし、育ってくれません。「夜泣き」、「第一反抗期(イヤイヤ病)」など「かん虫」といわれる状況下では自分の子とわかっていても時には非常に腹が立ちますし、泣きたくもなります。

 生まれてすぐの赤ちゃんは3時間起きて3時間寝るといった睡眠リズムで生活しており、生後3、4か月頃から昼と夜の区別が出来てくるといわれています。この昼と夜が区別された睡眠リズムの発達が遅い子の場合に「夜泣き」が問題となります。赤ちゃんは泣くことで親の注意を引いて、必要な世話をしてもらうという本能が備わっています。親にとって夜でも赤ちゃんにとっては夜の睡眠時間ではないので、遊んで、世話をして、と泣いて当然なのです。睡眠リズムが発達して、大人の夜と赤ちゃんの夜とが一致するようになるまでの辛抱です。困る場合は、朝の光など睡眠リズムの発達を促進させる方法を考慮し、疲れてくれば小児科医に相談してください。ただ、睡眠時に部屋が明るすぎたり、布団やパジャマを着せすぎて、暑さやのどが渇くために夜中に起きてくることもあります。色々な面からの検討もお願いします。

 もう少し年齢が大きくなるとわがままな行動をとるようになります。特に2歳頃からは「第一反抗期」と表現される親の言うことを聞かず、困らせる行動を頻回にとります。親が急いでいるのに「自分で、自分で」と親の助けを拒み、自分ひとりでやりたがります。自分の思うようにならなければ、すぐにすねたり泣き喚きます。なだめても容易には止まりません。子供に大人や他人の都合など理解できるわけはありません。世界は自分を中心に、自分のために回っています。子供に悪気は無く、自我が発達してきたという自然の経過なのですが、わが子ながら腹が立ちます。この頃には自分の行動にこだわりも出てきますので、子育てが余計に厄介になります。子供に親の困っている状況を話してもほとんど理解できません。親や他人が困っていることを理解できるようになる6歳頃には改善してきますので、それまで我慢です。

 この頃でもおだてられると乗ってきます。大人も子供もおだてには弱いです。うまくおだてて子供の能力を伸ばしてあげてください。褒めてあげれば、子供は色々なことを喜んで親のためにしてくれます。その結果、やった、やれたという達成感が子供の自信につながって行きます。その子供の頑張りを褒めてあげれば、子供はさらに自信をつけて次の事に挑戦していきます。

 うまくいかなくても、挑戦した、挑戦してくれたという事実が大切です。挑戦してくれたことを褒めてあげて下さい。出来なくても、良いのです。もう少し大きくなればできるようになります。あなたは今のあなたで良い、「親にとって子供はかけがえのない存在」であることを子供が理解することは重要ですので、言葉や態度、行動で子供に示す必要があると思います。子供が親や周囲から愛されていると実感できること、愛されている、かわいがられているという安心感が子供の素直な精神発達には必要です。親子のスキンシップ、抱っこが重要です。何度でも抱きしめてあげてください。一緒に遊んであげてください。甘え上手な子と甘えが下手で我慢をする子がおり、我慢をする子の場合は親のほうから子供が甘えてこられるような環境を作ってあげる必要があります。泣いたり甘えたりすることはストレスの発散にもなります。

 ただ、甘やかしすぎは困ります。危険なことやしてはいけないことには「ダメ」というけじめは必要です。子供の将来を考えてけじめの判断をし、教えてあげて下さい。子供は親の背中を見て育つということわざがありますので、大人の我々の行動にもけじめは必要です。

 子育て支援を目的に開発された子育て商品が沢山出回ってきています。非常に便利なものが多く、うまく使って余裕を持って子育てをして下さい。ただ、ベビーカーや車での移動が赤ちゃんの運動の機会や抱っこされる機会を減らしています。布おむつに替わる紙おむつは雨の日の洗濯を楽にし、おむつかぶれを減らしましたが、おしっこや便による赤ちゃんの快、不快の感覚の発達の促進を遅らす結果になっているかもしれません。テレビやビデオなども子供が喜んで見てくれますので、家事などの時間が確保でき、子育ての助けになりますが、程々にしないと子供の言語発育に影響が出る場合もありますし、テレビ依存の問題もあります。子育て用品は便利ですし、親の負担を非常に軽減してくれます。使用する事は良いことですが、子育て用品に依存しすぎは避けたほうが良いのかもしれません。親子のスキンシップ、子供の発育や発達を損なわないように注意しながら便利な子育て用品を使用して下さい。

 早寝早起きと十分な睡眠時間、バランスのとれた楽しい食事、親の笑顔、スキンシップとしての抱っこ、子供は親に抱っこされるとうれしくて幸せになります。親子一緒の遊び、親子で一緒に泣いたり笑ったり、親子喧嘩、腹が立つことも多くあります。子供に悪いことをしたと反省する事もあります。子供に振り回されながらの試行錯誤の連続です。自己満足の子育てで良いとは思いますが、親が理想とする子育て方法は子供にとって理想な方法ではないかもしれません。色々ありますが、無理をしないで、便利な子育て用品を十分に活用し、自分の生活も楽しみながら、子供を慈しみ、子供を信じ、自信を持って自分たち親子にふさわしい現実でのベストの子育てを模索していって下さい。



離乳食と食物アレルギー

 「離乳」とは、母乳や育児用ミルクを飲んでいた赤ちゃんが乳汁以外の食べ物を徐々に食べられるようになって乳児食に移行する過程をいいます。新生児や乳児早期では母乳が最適ですが、成長するにつれて母乳や育児用ミルクだけでは成長に必要なタンパク質やミネラルが不足するようになってきます。また離乳食で舌やアゴを動かして飲み込んだり噛んだりする事を覚える事は言葉をしゃべる準備段階ともなります。また、色々な食品を食べる事で味覚も育ちます。

1、離乳開始時期
 離乳食開始の目安は@首のすわりがしっかりしている。A支えてあげると座れる。B食べ物に興味を示す。C スプーンなどを口に入れても舌で押し出すことが少なくなることで判断します。離乳食を始める時期の目安は、赤ちゃんが順調に発育していれば5か月頃が適当です。この頃になると赤ちゃんは周りの色々な事に興味を示し始め、家族が食べているのをじっと眺めていたり口をモグモグ動かしたりして、自分も食べたそうな顔をしたりします。もしこのような表情が4か月頃からするようであれば、その時点から離乳食を少しずつ始めても問題ありません。逆に離乳食の開始が遅すぎると、そしゃく能力が発達せず、将来的にうまく噛めなくなったり、丸飲みをするようになりやすいといわれています。順調に育っている子であれば、遅くとも7か月頃までには離乳食を開始するようにして下さい。

 離乳食は赤ちゃんのそしゃく能力に合わせて、徐々に食べ物の形態を変えていく必要があります。慎重になりすぎていつまでもドロドロしたものばかり与えていると、アゴの発達が悪くなる場合もあります。

2、経口免疫寛容
 身体に悪影響を及ぼす可能性のある生物や物質という非自己から身体を防御するために免疫という自己防御機構が存在します。食物は身体にとっては自分のものではなく、異物ですので、食後にその異物を排除しようとして、何らかの反応をする場合があります。ただ、胃腸はそういった反応を抑えるシステムを持っており、蛋白質などは分解してアミノ酸というアレルギーが出ないレベルにまで分解して体内に吸収していますし、腸内にアレルギー反応などを抑制する物質を出しています。生体にとって必要な栄養は食物を利用して摂取しなければなりませんので、食物を摂取してもアレルギーを起こさない、つまり、免疫反応が起こらない仕組みが腸管には備わっているのです。口から摂取し消化吸収された食物に対しては過剰な免疫応答を起こさないようにしているシステムを経口免疫寛容と言います。アレルギーを起こしやすい食品を摂取してもアレルギー反応が起こらないのは、経口免疫寛容によりアレルギー反応が抑えられているからで、逆にアレルギーを起こしてしまう人は経口免疫寛容機構がきちんと働いていないことが原因と考えられます。

 皮膚に湿疹が出来ると、皮膚のバリア機能が障害されますので、皮膚から色々な物質が入り込みやすくなります。口周囲や手の皮膚の湿疹部位から食物の極一部が入り込み、それを排除しようとする体内の免疫反応が生じた結果、その食物に対するアレルギー反応が生じやすい身体になり、以後はその食物を食べるとアレルギー反応を起こすようになってしまった状態が食物アレルギーの発生機序であるという考え方が最近では主流になって来ています。口から食べた食物が食物アレルギー発生の最初の原因ではなく、皮膚から入り込んだ食物が最初の原因であることが多いと言うことです。食物アレルギーを予防するために、皮膚のスキンケアー、特に口周囲のスキンケアーが重要と考えます。

 今までは、離乳食をあまり早期から開始すると腸管が未熟なため、腸の粘膜がタンパク質をよく消化できずに分子が大きいまま吸収してしまうので、アレルギーが起こりやすくなる事があると言われていました。また、アレルギーの出やすい食物を遅くから開始して食物アレルギーを予防しようとする考え方もありました。しかし、生後6か月頃までは食物の免疫寛容も起こりやすい時期です。離乳食の開始時期を遅らせればアレルギー反応の発現が増えるというデーターが出てきております。生後4か月からの離乳の開始が赤ちゃんの湿疹の発症を抑制したり、食物アレルギーの発症を低下させるというデーターもあります。消化吸収能力の問題もありますので、極端な早期からの開始は困りますし、早期から離乳食を開始しなければいけないわけではありませんが、わざわざ遅らせることは無意味であり、その子その子の発育に合わせた時期に開始したほうが良いと考えます。

 自分たち親がアレルギー体質であったり、兄や姉のアレルギー体質が強いので、次に生まれてくる子がアレルギー体質にならないように、妊婦が妊娠中から卵、牛乳、大豆などのアレルギーを起こしやすいと言われている食物の摂取を避けたり、母乳を与えている間も母親がこれらの食物の摂取を避けるといった行動を勧める話も過去にはありましたが、現在、これらの食物制限には子のアレルギー体質の発症を予防する効果はないとされています。逆に、母親が何でも食べることによって、母親が食べた食物の一部が母乳に出て、赤ちゃんの口に入ることは経口免疫寛容という観点から将来の食物アレルギー予防になると考えられます。食物制限は非常に面倒で、益は少ないと思います。本当にアレルギーが証明された食物以外の食物制限はしないで下さい。

3、離乳の進め方
 離乳初期(4〜6か月)は乳首や哺乳ビンからミルクを飲んでいる状態から、スプーンなどを使ってドロドロ状の食物を飲む事を覚えていく時期です。スプーンからうまく飲み込むためには、口を閉じる必要があります。

離乳中期(7〜8か月)は舌で食べ物を上あごに押し付けてつぶし、後ろに送って飲み込む事を覚えていきます。離乳食は、舌で押しつぶせるくらいの硬さが適当です。
 離乳後期(9〜11か月)は次第に舌を左右に動かせるようになります。食べ物を歯ぐきの上に移動させて、歯ぐきで食べ物をつぶして食べるようになります。離乳食は、歯ぐきでつぶせるくらいの硬さが適当です。
 幼児期ではそしゃくはさらに上手になり、奥歯で食べ物をすり潰すように噛む事ができるようになります。乳歯は2歳〜2歳半くらいで揃いますので、2歳半頃までにこれらの機能が完成します。

 離乳食の開始は赤ちゃんの体調のよい日に始めるようにして下さい。初めのうちは消化吸収の良い穀物類や野菜類から始めるのが一般的です。また同じものばかりを与え続けないで、色々なものを順番に与えるようにして下さい。はじめはスプーン1杯から開始します。初日は試しの気持ちであげてみて、舌で押し出すようであれば舌にのせるスプーンの位置を少し変えて2〜3回試してみます。それでもだめなようであれば、2〜3日後にまたやり直してみます。

 離乳食は赤ちゃんのおなかが空いている時に与え、食べ物の温度は赤ちゃんの好みに合わせます。お母さんも30分くらいの時間をとって、ゆったりとした気持ちで与えるようにして下さい。あせると食べてくれません。

 離乳食はどんどん食べてくれる子もいれば、口から出してなかなか食べてくれない子もいます。赤ちゃんの発育状況や性格など異なりますので、食べてくれない場合でも、焦らずに2〜3日経ってから再度与えてみて下さい。素材の味を大切にする事は必要ですが、スープストックや調味料で少し味を付けて、その子の好む味付も考えて下さい。
 古い育児書などには、母乳やミルクの味以外の味に慣れさすためと、スプーンで飲めるようになることを目的として「お茶や果汁、野菜スープをスプーンであげましょう」と書いてありました。母親が食べる食事によって母乳の味は変わるという話もあります。果汁の摂取が虫歯を作る原因となる可能性と、果汁摂取で母乳やミルクの摂取量が減少して低栄養や発育障害が生じる可能性などもあります。現在は母親のビタミン摂取状況も良く、ミルクにもビタミンが添加されていますので栄養学的な意義はなく、離乳開始前に果汁を与える必要はありません。また、スプーン飲みの練習も必要なく、はじめはスプーンから上手に飲めませんが、すぐに上手くなります。ただ、便秘の子には薄めた果汁を与えると便が出やすくなるという利点があり、便秘の子では薄めた果汁を考慮しても良いと思います。

 離乳開始直後は、1日1回1品、小さじ1杯から2杯程度の量で十分です。2〜3日毎にスプーン1杯ずつ量を増やし、1週間目位から品目も少しずつ加えていきます。尚、この時期ではまだ母乳やミルクは従来通りの量と間隔で、母乳は飲みたい時に飲みたいだけ飲ませます。この時期の離乳食は、煮たり茹でたものをすり潰したり、スプーンで押しつぶしたなどろどろ状にしたものです。

4、注意点
1)牛乳貧血
 乳児に牛乳を毎日、たくさん与えると、貧血をおこしやすくなります(牛乳貧血)。牛乳に含まれているカルシウムとリン、鉄が結合して複合体をつくるため、腸での鉄吸収が低下します。乳幼児に鉄分が不足すると、脳での刺激を脳細胞から他の脳細胞へ伝える神経伝達物質の生成が減り、乳幼児の精神運動の発達に影響がでることが明らかになっています。少なくとも生後1歳までは、母乳やミルクの代わりに牛乳をたくさん与えることは止めてください。生後9か月ごろ以降の離乳後期の乳児では鉄分が不足しがちになりますので、鉄分が多く含まれる離乳食を考慮して下さい。

2)乳児ボツリヌス症
 蜂蜜は乳児ボツリヌス症を予防するために満1歳までは与えないで下さい。ボツリヌス菌は土の中に存在し、健康な小児や成人ではこの菌を食べても通常は自然に便中に排出され、発病しませんが、生後8か月頃までの乳児では腸内の予防態勢がまだ不十分なため、乳児の腸管内ではボツリヌス菌の増殖が可能で、腸管内で神経毒を産生しますので乳児ボツリヌス症と呼ばれる症状が出現します。症状は初期は便秘であり、進行すると筋力低下や哺乳力減少なども生じます。主な原因としては蜂蜜であり、市販されている蜂蜜ビンの約5%にボツリヌス菌が存在しています。ボツリヌス菌は芽胞という形態になると120℃4分では死にますが、100℃の加熱程度では死にません。1歳未満の子には蜂蜜は与えないことが原則です。蜂蜜が使用されている熱加工品の内、高熱加工品は問題ないのですが、100℃程度の熱加工品は食べさせないようにして下さい。

3)食物アレルギー
 離乳食開始前に食物アレルギーがないか血液検査を希望される親御さんがいます。スプーン1杯から開始するのは、消化吸収が出来るか、食物アレルギーがないかチェックする為でもあります。食物アレルギーに起因すると考えられるひどい湿疹や下痢などが続く場合以外での血液検査はほとんど意味を持ちません。血液検査結果が陽性であっても食べれる物は食べれます。検査結果が陰性でも、食べて強い症状が出るものは食べれません。心配であれば、昼間の病院が診療している時間に新しい食物を開始して下さい。食べれない食物は小児科医と相談しながら、少量ずつ食べれるようにチャレンジします。

 食物アレルギーが出ないように食事に気をつけていても、食物アレルギーを完全に予防する事は出来ません。食べて強い症状が出る食物は除去する必要はありますが、血液検査などが陽性であっても、食べて症状の出ない食物は除去する必要はありません。また、食後にアレルギー反応が一度出たからといっても、その食物が原因とは限りません。原因が他にあり、たまたま食後に偶発的にアレルギー反応が出た可能性もあります。今まで食べれている食物は大丈夫であることがほとんどと思います。アレルギー症状が出る食物であっても加熱したり、発酵させたり(味噌、納豆、ヨーグルトなど)、体調の良い時期、摂取量が少ない状況では症状が出ない場合もあります。このような場合では、症状が出ない程度に限定して食べさせてあげて下さい。年齢が大きくなると自然と食べれる量が多くなっていきます。

 除去食を実施しなければならない場合もあります。この場合、間違って食べてしまう、除去食物が含まれているのがわからずに食べてしまうという誤食はしばしば起こり得る可能性があります。その場合、長期に除去している食品では誤食後にアレルギー症状が強く出る傾向があり、注意が必要です。小児科医と相談しながら実施する必要がありますが、食べて治すという考え方である、経口免疫寛容を誘導する経口免疫療法を実施して食べれるように努力する事も考慮して下さい。強いアレルギー反応が出る危険性がありますので、無理をする必要まではありませんが、なるべく何でも食べれるようにしてあげることが離乳の目標の1つです。ただ、本当に食べれない食物には栄養のバランスを考慮した代替の食物を考えてあげて下さい。今はアレルギーがあり、食べれない食物でも、特別なことなしに、年齢が大きくなるだけで、自然にアレルギー反応の程度が低下して食べれるようになります。特に、乳幼児での卵、牛乳、小麦アレルギーは食物除去をして年齢が大きくなるのを待つだけで治癒する場合も多く、無理をして経口免疫療法を実行する必要がないのも事実です。子供や家庭の状況に合わせた取り組みを実行して下さい。



流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)

 耳の下(耳下腺)とあごの下(顎下腺)にある左右の唾液腺(唾液を作る所)が腫れて、顔の下部が丸みを帯びる病気です。耳の下にある耳下腺が主に腫れますので、この病名となっています。唾液腺が腫れる時に痛みが出ます。下顎の関節が耳下腺の近くにありますので、食べる時(開口時)に下顎の関節が動いて腫れた耳下腺に当たり、痛みを訴えることで病気に気づくのが一般的です。唾液腺の腫脹が特徴ですが、小学校高学年以降の男性では睾丸が腫脹することもあります。唾液腺の腫脹は両側の耳下腺腫脹が特徴的ですが、片側のみ、顎下腺のみ、1つの唾液腺のみなど色々で、左右の耳下腺と顎下腺の4か所が腫れることは多くはありません。同時に腫れることが多いのですが、1つの唾液腺の腫脹後数日してから他の唾液腺が腫脹することもあります。唾液腺の腫脹は出現後48時間頃がピークとなり1〜2週間続きます。腫れてた後5日を経過するまでは他人に感染させるとされ、登校・登園は禁止です。発熱はないことが多く、あっても軽度の場合がほとんどです。

 感染しても唾液腺が全く腫脹しない子も30%ほど存在します。特に2歳以下の年少児では唾液腺が腫れない率が高く、腫脹しても軽度であることが多いとされています。

 原因はムンプスウイルスというウイルスによる感染症で、感染してから発症するまでの期間(潜伏期間)は16〜18日です。

1、合併症
1)髄膜炎
 唾液腺腫脹の数日後に発熱、嘔吐、強い頭痛で発症します。背中から髄液を採取して、髄液の異状の有無で診断しますが、検査をすれば約半数の髄液に異常が認められるとされています。治療が必要なほどの強度の頭痛などの髄膜炎の症状は数%です。耳下腺腫脹の3日以内に出現することが多く、5〜7日で自然に改善し、後遺症は残しません。

2)睾丸炎
 小さな子どもでは生じませんが、思春期が出現する10歳以降で増加し、思春期以降では20〜30%の男性の睾丸が腫脹し、強烈な痛みを伴います。睾丸の腫脹は片側であることが多く、不妊の原因となることは稀とされています。女性の場合は数%で卵巣炎が生じます。

3)膵炎
 膵臓(すいぞう)にも異状が生じやすく、唾液腺腫脹の数日後から発熱、腹痛、嘔吐が出現します。数%に生じるとされますが、軽症が多く、1週間程度で治ります。

4)難聴
 2万人に1人程度に難聴も生じ、通常は片側性です。効果的な治療法が無く難治性です。

2、予防
 有料ですが、ワクチン接種で予防可能です。特に小学校高学年までかからなかった場合に、この年齢以降の男性に感染すると睾丸炎発生の可能性が高くなることを考慮して考えて下さい。

3、鑑別を要する疾患
 コクサッキーウイルス、パラインフルエンザウイルスなどムンプスウイルス以外のウイルス感染症でも耳下腺は腫れることがあります。流行性耳下腺炎に過去に感染していても、再度感染して耳下腺がごく軽度ですが腫れることが稀にあるといわれています。
 反復性耳下腺炎:口腔内の菌が耳下腺内に入って炎症を起こして片側の耳下腺が腫脹し、痛みを訴えます。細菌感染を起こしやすい構造の耳下腺を持つ子どもがおり、繰り返して耳下腺の腫脹がおこります。

4、治療
 原因であるムンプスウイルスに対する有効な治療方法はありません。痛みが強い場合やその他の強い症状があればこれを軽減する治療を行います。開口で痛みを訴え、食べれなくなりますので、硬くなくて噛まなくてすむような食べ物や飲み物を用意してあげて下さい。唾液の分泌を促進するような酸味(すっぱい物)の強い食物は避けて下さい。



リンゴのほっぺとしもやけ

 この時期は子供の頬が赤くなったり、しもやけ(凍瘡)が出来ます。冬は空気が乾燥しますので皮膚も乾燥します。乾燥肌を掻くと余計に皮膚が荒れてかゆみが増します。
 頬に鼻水やよだれなどの水分が付くと皮膚が乾燥して赤く、カサカサになり痒くなります。乾燥した皮膚に汚れが付くと痒みが増しますので、石けんを使い、こすらないようにして皮膚の汚れを落として下さい。乾燥が強い場合はワセリンなどの保湿剤を適時使用して下さい。
 凍瘡は、寒さのために毛細血管が収縮して血行が悪くなり生じる炎症のことで、手、足、頬、鼻先、耳たぶなどに生じます。皮膚が赤くなり、触ると痛みや痒みが伴います。その後赤黒くなり、腫れてきます。指に出来ると硬く膨れ上がることもあります。布団の中や暖房で暖まると痛みや痒みが強くなります。幸い、最近では衣類や暖房が改善されて発生率は低下しています。
 気温が5℃前後で昼夜の気温差が大きい時期に凍瘡になりやすいといわれ、体質や遺伝も関係します。また、手足周辺の湿度が高かったり、手足の皮膚を濡れたまま放って置くと気化熱により皮膚の表面温度が下がり、凍瘡になりやすくなります。手足の指が濡れたら、早く、しっかりと拭き取り、靴は乾燥させ、手袋や靴下が濡れた場合は早く取り替える事が予防に効果的とされています。先端が細い靴では足の指先が圧迫されて血行不良になり、凍瘡になりやすくなります。血行の循環が悪いためになる病気ですので、血行をよくするために凍瘡になりそうな部分や、手足などをしっかり温めたり、マッサージして予防をして下さい。厚めの手袋や靴下も効果があります。

 治療法は、患部を温めながらやさしくマッサージする方法、皮膚の血行を良くする軟膏を塗る。血液の循環をよくするビタミンEを服用する方法などがあります。

 けの水いぼ取りという痛みを伴う治療をしなくても良い状況を期待したいと思います。




和歌山県の小児の脳炎・脳症
――平成6年から4年間の調査――

 脳炎、脳症とは脳が炎症や特殊な物質によって傷害され、意識がなくなり、後遺症を残す可能性が高い病気です。原因が多彩で、しかも重症、急死が多く、根本的な治療はありません。脳炎・脳症はこわい病気ですがその実態や発生頻度は良くわかっていませんでした。そこで、和歌山県の全ての病院小児科を対象とする小児の脳炎・脳症の調査を平成6年から4年間で行いました。

結果(下に表を示します)
 4年間で58例の脳炎・脳症の発症がありました。年齢は生後1か月から15歳までで、20歳の1例は特殊な事情で小児科を受診した例でする。3歳未満が過半数の30例(51.7%)を占めております。季節的には12月〜2月の冬期に30例が集中しています。
 原因が明らかなのはインフルエンザ13例、ロタウイルス6例、サルモネラ4例、風疹2例と大腸菌、マイコプラズマ、麻疹、アデノウイルス、HHV-6各1例でした。インフルエンザが流行した冬は脳炎・脳症が多く発症しています。

 転帰は死亡12例、後遺症18例(重症7例、中等症5例、軽症6例)、特に問題は生じなかった(軽快)28例でした。死亡例は冬期に集中しています。

臨床経過
発熱などの出現から神経症状(けいれんや意識障害)出現までの日数をみますと、発熱と同じ日(第1病日)に19例、翌日(第2病日)18例、第3病日6例、第4病日5例に出現し、神経症状出現は発熱と同じ日か翌日が多く、重症化の予測は困難でした。

 インフルエンザワクチン接種歴は不明例を除く全員にありませんでした。

小児科医の考え方
 脳炎・脳症は発症が急速であり、また治療に難渋します。そのため、脳炎・脳症ではその発症予防が重要であると考えます。ワクチンは100%効果のあるものではありませんし、副作用もないとはいえません。しかし、病気の予防には現時点ではワクチンしかなく、脳炎・脳症など重症化する病気には特にワクチン接種をお勧めします。特に脳炎・脳症の罹患率が高い乳幼児や重症化しやすい基礎疾患を有する児には積極的なワクチン接種が重要と考えています。

 和歌山県での4年間の脳炎・脳症

.発症日
年齢
原因
神経症
出現まで
転帰
1994年3月
5
同定できず
1日
死亡
5
同定できず
1日
死亡
8
風疹
4日
後遺症なし
4月
10
同定できず
0日
後遺症、重症
6月
10
同定できず
0日
後遺症なし
5
風疹
2日
後遺症なし
8月
2
同定できず
1日
後遺症、軽症
12月
0.1
同定できず
1日
後遺症なし
1
同定できず
0日
後遺症なし
1995年1月
5
同定できず
1日
死亡
14
同定できず
4日
死亡
1
インフルエンザ
0日
後遺症なし
2月
0.9
同定できず
2日
死亡
2
インフルエンザ
1日
後遺症、重症
4月
4
同定できず
1日
後遺症なし
6月
8
同定できず
3日
後遺症なし
9月
2
同定できず
4日
後遺症なし
10月
7
同定できず
1日
後遺症なし
12月
4
同定できず
2日
後遺症、中等症
2
同定できず
1日
後遺症、中等症
1996年1月
2
同定できず
1日
後遺症、重症
6
同定できず
1日
死亡
2月
15
麻疹
8日
後遺症なし
3月
15
サルモネラ
1日
後遺症なし
1
インフルエンザ
3日
後遺症、軽症
7月
8
同定できず
0日
後遺症なし
2
大腸菌(O-157)
0日
後遺症、重症
11月
5
同定できず
3日
後遺症、軽症
12月
1
インフルエンザ
6日
後遺症、軽症
1997年1月
1
ロタウイルス
2日
後遺症、軽症
1月
0.8
ロタウイルス
0日
死亡
20
同定できず
0日
死亡
2月
9
マイコプラズマ
8日
後遺症なし
0.9
同定できず
0日
死亡
4
同定できず
2日
死亡
3月
0.9
同定できず
0日
後遺症なし
0.6
ロタウイルス
7日
後遺症なし
4月
0.4
ロタウイルス
0日
後遺症、重症
5月
0.8
同定できず
1日
後遺症なし
9
ロタウイルス
1日
後遺症なし
7
サルモネラ
1日
後遺症なし
5
サルモネラ
5日
後遺症、重症
6月
0.3
ロタウイルス
9日
後遺症なし
1
アデノ 7型
3日
後遺症なし
8月
11
サルモネラ
0日
後遺症なし
9月
0.8
HHV-6
0日
死亡
11月
11
同定できず
1日
後遺症、中等症
12月
2
インフルエンザ
0日
死亡
4
インフルエンザ
0日
後遺症なし
1998年1月
1
同定できず
1日
後遺症、中等症
1
インフルエンザ
0日
後遺症、重症
9
インフルエンザ
1日
後遺症なし
2月
1
インフルエンザ
0日
後遺症、中等症
1
インフルエンザ
0日
後遺症なし
2
インフルエンザ
0日
後遺症なし
11
同定できず
6日
後遺症、軽症
2
インフルエンザ
2日
後遺症なし
1
インフルエンザ
3日
後遺症なし



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