2001年 12月30日 放送
発熱


 発熱は病気に気づくきっかけとなります。発熱を心配するのは当然ですが、心配しすぎないようにしましょう。急を要する病気の症状のこともありますが、ほとんどはウイルス性の感染症(いわゆる風邪)です。こういったウイルス性感染症に効く薬はほとんどありません。ウイルスと戦う体力が重要です。涼しい気持ちの良い環境つくりを心がけてください。水分補給が重要です。食べられるものから食べてください。

1、考え方
1)乳幼児では1年間に5〜6回の熱発があるのが一般的です。特に保育園や幼稚園に行き始めの1年間は頻繁に熱を出します。また、兄弟がいると発熱する機会も多くなります。

2)発熱や下痢を生じさせるウイルスはたくさんあります。これら一つ一つのウイルスに感染し、抵抗力を獲得することで、次第に感染するウイルスが減少し、熱発の頻度も少なくなります。

2、発熱時の対応
1)熱が高くても機嫌が良い場合はあせらず、落ち着いて小児科専門医を受診しましょう。熱が低くても機嫌がかなり悪い、ぐったりしている、呼びかけに対する反応が悪い(意識低下)などの場合は救急で小児科専門医のある病院を受診するようにしましょう。

2)原因はウイルスによることがほとんどであり、この場合は抗生剤(マイシン)は効きません。ただ、乳児などではその後の細菌感染を予防する目的で使用する場合もあります。

3)リュウマチ熱、急性腎炎などをおこしやすい溶血性連鎖球菌(溶連菌)など特殊な菌の場合は一定期間の抗生剤服用が重要です。

3、熱性けいれん
 親や兄姉に熱性けいれんがあればおこしやすいといわれています。前もって対応を相談しておくことも考慮してください。

4、解熱剤の使用
 解熱剤は熱を下げて子供の機嫌を良くしますのでありがたい薬ですが、熱を数時間下げるだけであり、病気は治しません。数時間の効果が切れれば再度熱は高くなります。解熱剤の使用は38.5または39℃以上で、熱のために機嫌が悪い時や寝てくれないなどの時に限定し、なるべく使用回数を減らしましょう。アセトアミノフェンやイブプロフェンが無難です。インフルエンザの時はボルタレンやポンタールなどの解熱剤は脳炎・脳症などとの関係が言われていますので使用しないでください。
 解熱剤の効果としては少なくとも1℃以上下がるのが望ましいのですが、種類や量によっては強すぎて低体温やショックになることがありますので注意してください。



2001年 11月26日 放送
肝炎


 肝臓に障害を与えるものにはウイルスや毒素などがあります。肝臓は予備能力が大きく、再生力も強く、早期に原因を除去すれば完全回復します。

1、肝炎ウイルスとは
 A型、B型、C型、D型、E型と呼ばれる肝炎ウイルスがありますが、D型とE型は日本では稀です。A型は経口(日本では稀ですが牡蠣などの2枚貝)、B型とC型は血液(輸血や血液の付着した針などを介して)感染します。

2、慢性になりやすいウイルス
 B型とC型ではキャリアといわれる、ほぼ一生涯肝臓中にウイルスを持つ人がいます。

3、キャリアになぜなるのか
 抵抗力が弱い乳幼児に感染した場合やウイルスが変化して排除されなくなった場合に肝臓の中にすみつきます。一生肝炎をおこさず天寿を全うする人も多いのですが、一部の人は慢性肝炎、肝硬変、肝癌といった経過をとります。
 B型では小学校入学頃まではウイルスを排除する力が弱いため、その時期の感染でキャリアになる可能性があります。しかし、それ以上の年齢ではキャリアにはまずなりません。
 C型はウイルスが排除されにくく、成人の感染でもキャリアになる可能性があります。

3、キャリアにならないために
 キャリアの母や父から子、感染した血液の輸血、汚染された針の回し打ちなどが原因です。針の再使用の禁止は重要です。B型肝炎ウイルスの場合はキャリアの母から子、キャリアの父から子の感染をほぼ完全に予防できます。親子が安心して接し、遊ぶことは親にとっても子供にとっても非常に重要です。ワクチンによる予防をお勧めします。
 C型肝炎ウイルスの場合はワクチンによる予防が現時点では出来ません。しかし、キャリアの母から子への感染率が5〜10%ですので、感染する危険性はあまり高くはありません。

4、キャリアになってしまった
 B型を排除する薬はありません。予防が重要です。C型ではインターフェロンを有効な時期に使用すると30%で排除可能です。
 肝炎を鎮静させる薬はありますし、キャリアでも肝障害の無いことが多く、子どもでは肝硬変などにはまずなりませんが、元気であっても年に1〜2回の肝機能検査をお勧めします。

1)食事について
 食事に制限は全くありません。バランスよく食べてください。

2)運動について
 運動の制限もありません。肝機能が多少悪くてもクラブ活動なども大丈夫です。

3)他人への感染は
 日常生活の中で、他人へ感染させる心配はありません。幼稚園や学校でも大丈夫です。



2001年 10月28日 放送
インフルエンザ


 インフルエンザは毎年冬に国内至る所で蔓延し、高熱、関節痛、筋肉痛、頭痛、咳など多彩な症状を示し、長ければ7日ほど続きます。咳などを介して伝播し流行します。

1、流行の時期は12月〜3月です。

2、他の風邪との違い
 関節痛や筋肉痛などの症状が強く、発熱も39〜40℃が1週間ほど続き、症状が強いことが特徴です。
 熱が高いため小学校入学までの子どもでは熱性けいれん、乳幼児では脳炎・脳症と気管支炎、高齢者では肺炎をおこしやすい。

3、一冬に何度もかかるのはなぜ?
 インフルエンザウイルスにはA型とB型があり、毎年流行します。
 その中で、A型は毎年変異し、一冬に数種類が流行します。
 数種類のA型とB型が一冬に流行していますので何回もかかることがあります。

4、毎年かかるのはなぜ?
 毎年A型は変異をしています。変異をしてしまわれると前年度にかかって獲得した抵抗力ではウイルスを殺すことが出来なくなります。ウイルスが生き残るための方法です。
 毎年ワクチンを接種しなければならないことの理由の1つです。

5、毎年ワクチンを接種する必要があるのは?
 このワクチンの効果は5か月ほどで1年は持ちません。
 また、A型のウイルスは毎年変化し、以前のワクチンでは効果がない場合があります。

6、予防方法は?
 ウイルスに近づかないことですが、部屋の中に閉じこもってばかりいられません。
 うがいなども効果があります。
 ワクチンによる早期の予防と薬による流行時での予防があります。

1)ワクチンによる予防
 乳幼児では2回、成人などでは1回接種します。12月までの接種が理想です。
 自費ですが、今年から65歳以上の人は補助がありますので1000円で出来ます。
 感染の予防効果は70%程度といわれています。

2)薬による予防
 健保では認められておりませんが可能です。ただ、冬中服用しなければなりませんので、費用がかなりかかりますし、副作用の問題もあります。ワクチン接種が原則で、ワクチンの効果が出るまでの期間などに限る必要があります。

7、罹患してからの治療は?
 A型にのみ有効な薬とAもBにも有効な薬がありますが熱が出たその日か翌日まで(40時間以内)に使い始めないと効果がありません。
 6日間の熱が4日か5日間になる程度ですが、体はかなり楽になります。



2001年 9月24日 放送
肥満


 最近は生活習慣病という言葉が流行し、肥満が元凶のように言われています。しかし、肥満による悪い影響が出る程度は個人によって異なります。悪い影響さえなければ多少の肥満はかまわないという考えもあります。食べることは楽しいことですし、子供では身体の発育が大切です。食事の制限ばかりせずに、自分や子供の程度を知って楽しく食べましょう。

1、動物の本能としての脂肪の蓄積
 脂肪は飢えに対してのエネルギーの蓄積です。最近は飽食の時代といわれますが、それまでは本能として@生きるために、食べれる時に出来るだけ貯める、Aエネルギー効率の良い甘いもの、脂っこいものを好む、B食物を与えることは愛情でした。食事制限は本能に逆らうことで難しいことです。

2、肥満に対する考え方
1)肥満自体は大きな問題ではありません。脂肪蓄積で生じる症状、障害が問題です。
2)病気のために肥満になる場合もあります。本人や親ではどうしようもない場合があることも考慮する必要があります。

3、運動嫌いが多い
 太ると運動するのがたいそうになり、運動しないと余計に太るという悪循環になりがちです。軽い運動をゆっくり長続きするように行いましょう。

4、子どもで何が問題となるのか?
1)脂肪肝
 肝臓に脂肪が溜まりすぎる状態で、肝機能が悪くなります。太っている人が必ずしも脂肪肝ではありません。内蔵型肥満(脂肪がお腹の中につく)に肝機能障害が生じやすく、また糖尿病も同様です。肥満と感じている場合は血液検査や尿検査を受けてみて下さい。
この場合は、肝機能が悪くても運動させてやせさせることが肝心です。運動で肝機能がすぐよくなります。

2)糖尿病
 インスリン非依存型糖尿病(糖をコントロールするホルモンが効きにくくなる)になりやすくなります。家族に同型の糖尿病があると特に要注意です。
 尿や血液の検査でわかります。

5、治療法
1)子どもは身長が伸びるため、体重を増やさないようにするだけで肥満度は低下します。
2)間食(ポテトチップスなど)やジュースを控えるだけで肝機能はすぐによくなります。身体の発育のため、カロリー控えめの食事を十分に楽しく食べましょう。
3)ゆっくりとした運動を続けることが重要です(激しい運動は長続きしません)。
4)運動や食事療法は家族みんなで行うことも大事です。

 子どもの時期の食事や運動の習慣は成人後の生活習慣病(糖尿病、高血圧など)の予防にも重要です。



2001年 8月27日 放送
低身長の実際


 今回は低身長の原因や診断・治療法についての具体的なお話です。

1、低身長をおこす主な原因
1)成長ホルモン分泌不全症(成長ホルモンの分泌が少ない)
 成長ホルモンは身長増加以外にも、血糖や体脂肪、蛋白合成にも影響を与え筋肉増強、体脂肪の減少、動脈硬化増強因子減少に働きます。

2)甲状腺機能低下症(甲状腺ホルモンの分泌が少ない)
 甲状腺ホルモンは身体の活動性に影響し、機能低下症では下肢のむくみ、食欲低下、便秘、活動性の低下、やる気もなくなり、知能障害を来し、身長の伸びも低下します。

3)骨の病気
 手足の骨が伸びにくい病気があります。

4)ターナー症候群などの染色体の異常
 染色体自体は治療できませんが、それに伴う症状は治療可能です。

5)思春期早発症 
 思春期が異常に早く来る(7歳までに乳房が大きくなるなど)ため、幼稚園や小学校低学年では身長は高いですが、身長が早く止まりますので最終の身長はかなり低くなります。

6)愛情遮断(子どもが愛情に飢えている)
 子どもが愛情に飢えると精神のみならず身体発育にも影響が出ます。こういった子では栄養摂取不良による身長、体重の伸びの低下に加え、成長ホルモンの分泌も悪くなります。

7)特に異常はありませんが@低出生体重児(生まれた時に小さく、まだ追いついていない)A家族性(家族全員が低身長)B思春期遅発症(小学校高学年〜中学校生で思春期がまだ来ていない。思春期が来ると伸びる可能性が高い)などです。

 この内、1)〜5)については治療が出来ますし、必要です。6)と7)に関しては家族、学校、医師などによる精神的なサポートが必要です。

2、診断方法
 身長・体重の発育経過、手の骨のレントゲン(手根骨)で骨の発育状況、血液検査で貧血や肝臓などの機能、成長ホルモンや甲状腺ホルモンの分泌能力などを調べます。

3、治療
 成長ホルモン、甲状腺ホルモンの分泌が少なければホルモンを補充します。これらの治療は一定の基準を満たすと小児慢性特定疾患に対する公費負担制度が利用できるため無料です。

4、治療が必要と考えられる子は?
 統計上同じ年齢の子を100人身長順に並べると、前から1人または2人に可能性があります。クラスや学年内で身長がかなり低い、最近あまり伸びないなど感じたら可能性があります。

お気軽に小児科専門医にご相談ください。



2001年 7月30日 放送
低身長の基礎


 身長はファッションモデルや特殊な運動のプロを目指す場合には高くないと困りますが、一般の成人では大きな問題とはなりません。しかし、小児期では学校などの集団生活の中や多感な思春期では精神的な問題を引き起こすことがあります。また、親や保護者の方は同級生の身長と比較して一喜一憂することが多いのですが、これも子供に強いストレスを与えています。
 親、子が共に身長というものを理解し、どういった時に、またどの程度で小児科を受診すべきか、また治療は必要か、必要とすればどのような治療法があるのかを理解することが大切です。
 今回は、身長についての一般的な考え方を述べます。

1、身長はいつまで伸びるか?
 一般的には男子は17歳、女子は15歳頃までです。

2、身長の男女差はなぜできるのか?
 思春期の出現が女児では9歳半、男児では11歳ごろと1歳半ほどの差があります。その期間の身長の伸びの差が8cmで、思春期出現時期の女児の平均身長は132cm、男児140cmです。その後は男女共5〜6年で身長は止まりますが、その伸びは女児26cm、男児31cmです。つまり、合計で13cmほどの差が出来ることになります。

3、身長の増加は年齢や季節によって異なる?
 身長増加率は年齢によって差がありますし、1年間でも伸びの良い季節と伸びの悪い季節があります。また、身長の伸び率、伸びる時期、最終身長は個人差が大きく、遺伝や環境によっても異なります。あまり他の子と比較しないでください。

4、牛乳をたくさん飲めば身長が伸びる?
 牛乳中のカルシュームが身長を伸ばすと信じている人には気の毒ですが、医学的にはカルシュームは骨を硬くしますが、身長の伸びにはそれ程影響しません。骨を造るのはたんぱく質です。たんぱく質を十分摂る必要がありますが、今の子どもの栄養は十分足りていると思います。野菜などを多くしたバランスの良い食事を楽しく食べることが良い結果を生むと思います。

5、運動は身長を伸ばす?最も有効な運動はあるのか?
 発育時期の子どもの手や足の骨の両端には成長層といわれる骨を伸ばすところがあります。この成長層に適度な圧力が加えられると成長層が活発化され、骨が順調に伸びます。適度な運動は成長層を刺激し、身長増加を促します。特別に効果が良いというスポーツはなく、どのスポーツも楽しく、適度にすることで身長に良い影響を与えます。




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