夏かぜ
熱性けいれん




泣き入り引きつけ(憤怒けいれん)

 乳幼児が大泣きした後、呼気(息をはいた)状態のまま、呼吸を停止し、顔色が不良になり、意識喪失、全身の脱力(ぐったりする)やけいれんなどを起こす病態を「泣き入り引きつけ(憤怒けいれん)」といいます。子どもがけいれんを起こしますので心配されるのは当然ですが、一般的に脳や身体などに異常を残しませんし、成長発育に伴って自然に消失して行く予後の良い疾患です。

1、発症機序
 泣く原因は様々ですが、強く泣くことで無呼吸となり、脳が一過性の無酸素状態に陥り、意識消失と脱力やけいれんなどが生じると考えられていますが、実際はまだよくわかっていません。通常、すぐに呼吸が再開し、後遺症は残しません。欲求不満や打撲などの痛み、恐怖、怒りなどが契機になって泣き入っておこります。脳波やCTスキャンなどの画像検査、血液検査などに異常はありません。

2、症状と病態
 熱性けいれんとは異なり、発熱に関係なく起きますし、てんかんなどと違って、発作の前に必ず「大泣き」や「びっくりする」などの誘因があり、「無呼吸」の段階があるのが特徴で、当然、睡眠中には起こりません。発症時の顔色から青色失神(チアノーゼ型)と白色失神(蒼白型)に分類され、泣き入り引きつけのほとんどが青色失神のタイプです。

1)青色失神
 激しく泣いている赤ちゃんが、突然息をはいた状態(呼気)状態のまま呼吸を止めて顔色が紫色になり、白目をむき、手足を突っ張らせ、手足がガクガクと動くけいれんが起こります。強く泣くことで「息つぎ」が出来なくなり、無呼吸となって症状が出現します。「かんしゃくの強い子」、「我が強い子」に多い傾向があります。恐怖を感じた時、かんしゃくを起こした時、叱られた時、痛みなどが泣く誘因となります。

2)白色失神
 突然の強い恐怖や痛み、感情的な興奮によって、ほとんど泣かずに心拍が止まり(迷走神経反射)、脳血流が減少するためにけいれんが起こります。発生は稀で「怖がりな子」や「華奢で繊細な子」に多くみられます。強い打撲や予期せぬ痛み、驚き、恐怖などが誘因となります。

 いずれのタイプでも、けいれん発作の持続時間は1分以内のことが多く、自然経過で、数分以内に顔色も回復し治ります。けいれんまで進まずに顔色不良までの軽症で治まる子もいます。発生頻度は一生に1度のみ、1日に数回、一時期は毎日発生するなど色々です。何回起こっても予後は良好で発達にも影響しません。

3、発症年齢
 生後6か月頃から発症し、6か月から2歳頃までの発症が大半を占め、以後は減少して7歳頃には消失します。小児の約5%にみられ、比較的多い疾患です。家族内発生は約30%に認められ、遺伝的素因があるといわれています。感情の起伏が激しい、要求の多い、頑固、自己防御がうまくできない乳幼児に多くみられる傾向があります。

 乳幼児期ですので脳の発達が未熟なため、低酸素状態などの刺激に対してうまく対応できず、脳細胞が異常に興奮してけいれんが起こるとされ、成長に伴って脳組織も発達し、感情のコントロールも出来るようになれば発作が起こらなくなると考えられています。

4、対応と治療
 「泣き入りひきつけ」は乳幼児期におきる「反射性けいれん」の一種で子どもの成長に伴い 自然に消失して行くものです。また、けいれんの動きは派手でも、1分程度でけいれんは止まることを理解して、慌てないで冷静に対処することが重要です。発作時では倒れてけがをしないように身体を支えたり、周囲に危ないものを置かないような配慮が必要です。慌てずに、横たわらせ、衣服を緩め、安静を保ち、顔色や意識の回復を待ちます。発作は起こらないほうが安心ですので、発作の予防として、泣き入りひきつけを起こしやすい子が強く泣きだしたら、早目に抱き上げる、あやす、なだめる、背中をさする、声をかけるなどで気を紛らわすと泣き入らずに済む場合もあります。強く泣き出したら、衣服を緩め、声をかけて安心感を与え、抱き上げて子どもをあやして下さい。泣き止むと泣き入りひきつけは起こりません。

 子どものけいれんでパニックになるのは仕方がないのですが、子どもを起こそうとして揺すったり、刺激を与えたりせず、安静にして、けいれんが治まるまでは子どもを見守って下さい。舌は噛みませんので、口の中に指や箸などを入れないようにして下さい。こじ入れた指を噛まれてけがをしますし、突っ込んだ箸やスプーンなどで口の中を傷つけます。タオルなどを口の中に入れると窒息させる可能性もあります。また、あやすためや意識を戻そうとして強く身体を揺さぶると頭蓋内出血が生じる可能性がありますので、強く揺さぶることも避けて下さい。

 日常、「泣かせまい」として、過度に神経質になったり過保護にならないよう注意して下さい。甘やかしすぎたり、過剰に希望の物を与たりすると、精神発育に問題が生じる可能性が出てきますし、調子に乗って欲求に限度がなくなり、余計に泣く状況を作ることにもなりかねません。不安な場合は、小児科医や小児神経専門医に相談して下さい。親が不安で、過敏や神経質になり過ぎると子どもの精神状態にも悪い影響を与えます。

 泣き入り引きつけは予後が良好で自然治癒しますし、薬の効果がはっきりしていませんので薬物治療は原則として行いません。ただ、回数が多い場合や発作の程度が強い場合は専門医とよく相談のうえで、鎮静剤やある種の漢方薬などを短期間に限り内服させるのも一つの方法と思います。貧血があると低酸素になりやすいため、鉄剤服用で貧血が改善するとけいれんまで進まなくなる場合もあります。



夏かぜ

 冬はインフルエンザなど重症化したり咳や鼻水が続く風邪が多いことはよく知られていますが、夏は「寝冷え」「おへそを出して寝たから」など、夏風邪はあまり重要視されていません。しかし、夏風邪では咳や鼻水は少ないのですが、突然に高熱が出たり、のどの奥が真っ赤に腫れたり、口内炎ができてのどが非常に痛がるなどの症状が出ますので軽症であるとはいえません。また、熱に伴って発疹(皮膚に赤いぶつぶつが出る)が出ることもあります。
 代表的な病気としては「手足口病」「ヘルパンギーナ」「咽頭結膜熱(プール熱)」があります。これらの病気をおこすウイルスは各々数種類ずつあり、いずれも何回もかかります。

1、手足口病
 口内炎、手のひらと足の裏に小さな水泡性の発疹ができます。乳幼児では膝前面や臀部(お尻)にも発疹ができますが、痒みはありません。口内炎は小さな潰瘍となりますので痛みを伴います。3割ほどの子に微熱も出ます。潜伏期は3〜4日です。通常、数日〜1週間で自然治癒します。薬は必要ありませんが、口内炎の痛みが強いときは口内炎用の軟膏があります。
 原因ウイルスはコクサッキーA16とエンテロウイルス71が主です。4歳以下の乳幼児が80%以上を占め、1歳にピークがあります。感染力は発疹出現の前後2日間が強いのですが、ウイルスは咽頭からは1〜2週間、糞便からは約1か月も排出されています。
 予後は良好ですが、稀な合併症ではコクサッキーA16では心筋炎、膵炎、肺炎が、エンテロウイルス71では無菌性髄膜炎の報告があります。

2、ヘルパンギーナ
 突然の発熱に続いて、のどの奥(のどちんことその左右)が真っ赤になり、すぐにその部分に1〜2mmのその周囲が赤い水疱が数個出現し、すぐに破れて浅い潰瘍の口内炎になります。口の中の痛みが強く、機嫌が悪いのが特徴です。発熱は1〜4日で消失し、口内炎もその後消失します。ほとんどが4歳以下の子で、1歳代がピークです。潜伏期は2〜4日です。予後は良好ですが、稀に心筋炎や無菌性髄膜炎になることもあります。
 主にコクサッキーA群が原因で、ウイルスは咽頭からは1〜2週間、糞便からは2〜4週間も排出されています。

3、咽頭結膜熱(プール熱)
 発熱で発症し、頭痛や全身倦怠感、咽頭通、結膜充血や眼脂が出現します。のどの奥が真っ赤になり、目の結膜炎(目やにが出る)、高熱が4、5日続きます。目の結膜炎は片方に生じ、続いて他方に移ります。目やにが出ている状態ではプールでタオルなどの共有で感染させますが、実際は名前とは異なりプールでの感染は少なく、主には咳や目やにからの感染です。タオルの共有は止めて、うがいや手洗いで予防してください。潜伏期は5〜7日です。

 主にアデノウイルスの3型、4型、7型で生じ、7型は高サイトカイン血症を生じる可能性があり、重症化する可能性が指摘されています。ただ、乳幼児の急性呼吸器感染症の約10%はアデノウイルスといわれていますので、のどを調べてアデノウイルス検査が陽性だけで、この病気ということは出来ません。

4、対応
 口内炎ができたり、のどの奥が真っ赤になることからのどの痛みが強く、食べない、不機嫌、よだれが多いなどの症状が出ます。イオン飲料水やお茶、プリンやゼリーなどの冷たくてのどごしの良いものを食べれるだけあげて下さい。治す薬はありません。水分さえ飲めていればあまり心配はいりません。痛みが強くて夜寝ないときはアセトアミノフェンなどの薬を少量使用すると痛みが軽くなり眠れるようになります。小児科専門医に相談して下さい。薄着で涼しい快適な環境を作って下さい。
 登校基準は手足口病やヘルパンギーナには無く、元気であれば行っても良いことになっています。咽頭結膜熱は登校基準があり、主症状が消退した後2日で、症状により感染の恐れがない場合はこの限りではないとなっています。

5、夏季熱
 乳幼児の体温は外気温に影響されますし、水分の摂取が十分でないと体温は上昇します。暑い環境で眠ると汗をかきますし、眠っている間は水分の補給がありませんので軽度の水分不足となり早朝に38℃程度になることはよくあります。目覚めてからお茶やミルクなどを飲んで水分補給が十分になると平熱に戻ります。元気で機嫌が良いのが特徴です。風邪などの感染症や病気ではありません。心配はいりません。



夏に気をつけたいこと

 暑さが本番を迎えています。最近では毎日外で真っ黒になって遊んだり、泳いだりという子は少なくなりました。冷房の効いた部屋でジュースを飲みながらテレビやゲーム、冷房の効いた塾や習い事などです。
 「夏痩せ」という言葉はなくなり、代わりに「夏肥り」という言葉に代わりました。しかし、夏に特徴的な病気は減ってはいません。室内に冷房は効いていても、汗疹(あせも)や夏風邪などの病気はあります。チャイルドシートのための背中の汗疹が増えています。車の中の赤ちゃんや子供の熱中症(熱射病)も減ってはいませんし、死亡する例もあります。

1、汗疹(あせも)
 汗腺の出口が何らかの理由で塞がれて炎症が生じたためです。かゆみがありますので、かいて引っかき傷をよく作ります。その傷に黄色ブドウ球菌や溶連菌などの細菌が感染すると「とびひ」になります。最初は小さな薄い膜の水ぶくれですが、すぐ破れてジュクジュクになります。溶連菌の場合は抗生物質の治療が必要です。汗をかかないことは不可能ですので@吸湿性の良い下着(木綿など)を着せるA風通しを良くするB皮膚を清潔に保つCシャワーなどを適宜使用するなどで予防します。薬もあります。

2、夏季熱
 乳幼児の体温は外気温に影響されますし、水分の摂取が十分でないと体温は上昇します。暑い環境で眠ると汗をかきますし、寝ている間は水分の補給がありませんので軽度の水分不足状態となり38℃程度になることはよくあります。目覚めてからお茶やミルクなどを飲んで水分補給が十分になると平熱に戻ります。元気で機嫌が良いのが特徴です。風邪などの感染症や病気ではありません。心配は要りません。

3、熱中症
 生体の適応範囲をこえる高温環境が続くと、水分や電解質の代謝がうまくいかなくなります。小児では成人に比べ皮膚表面積が大きく、発汗能力も劣るため、体温調節機能は成人に比べ未熟です。また、小児の方が水分をたくさん必要としますので、暑熱障害は子供に起こりやすくなります。一般には3つの型に分類されています。

@熱疲労
 大量の発汗によって、脱水や電解質の喪失が生じたため抹消循環不全になった状態です。脱力感、嘔吐、頭痛などがおこります。

A 熱痙攣
 発汗のため電解質(ナトリウムとクロール)が喪失したために生じる運動後の筋肉の痙攣で痛みを伴います。電解質の含まない水分の補給ばかりをした場合にみられやすく、下腿のふくらはぎ(ひ腹筋)のこむら返りが一般的です。

A熱射病
 体温が異常に上昇したために、熱自体や熱による循環不全によって全身臓器の障害が生じた状態です。体温の異常な上昇、発汗の停止、痙攣、意識障害などが生じます。肝臓や腎臓の機能不全も生じます。
 日射病は直射日光に長時間さらされるために生じる循環不全をいいます。

対応
 熱中症は予防できます。高温になる環境を避ける。高温下で運動するような場合には適当な休憩や電解質やカロリーの含まれた水分を十分に摂取させるなどの注意が必要です。また、肥満、糖尿病、心臓病やどの基礎疾患、睡眠不足、運動不足などの体調不良は暑熱障害を起こしやすいため、このような状況を極力避けるようにすることが必要です。
 熱中症になった場合は、塩分やカロリーの含まれた水分を十分摂らして、冷所で安静にさせる。状況によっては衣服を脱がせ、体を冷却する。氷風呂、アルコール湿布などで38℃台まで下げる。酸素をかがせるなどをすばやく行うことが必要で、重症では緊急入院を要します。

4、夏風邪
 代表的な病気としては「手足口病」「ヘルパンギーナ」「咽頭結膜熱(プール熱)」があります。これらの病気をおこすウイルスは各々数種類ずつあり、いずれも何回もかかります。

@ 手足口病
 口内炎、手のひらと足の裏に小さな水泡性の発疹(赤いぶつぶつ)ができます。乳幼児では膝前面や臀部(お尻)にも発疹ができます。3割ほどの子に微熱も出ます。

A ヘルパンギーナ
 のどの奥(のどちんことその左右)が真っ赤になり、すぐにその部分に口内炎が数個できます。口の中の痛みが非常に強いのが特徴です。高熱も1〜3日出ます。ほとんどが4歳以下の子です。

B 咽頭結膜熱(プール熱)
 のどの奥が真っ赤になり、目の結膜炎(目やにが出る)、高熱が4、5日続きます。目やにが出ている状態ではプールで感染させますが、実際は名前とは異なりプールでの感染は少なく、主には咳や目やにからの感染です。目の結膜炎は片方に生じ、続いて他方に移ります。

対応
 口内炎ができたり、のどの奥が真っ赤になることからのどの痛みが強く、食べない、不機嫌、よだれが多いなどの症状が出ます。イオン飲料水やお茶、プリンやゼリーなどの冷たく、のどごしの良いものを食べるだけあげて下さい。水分さえ飲めていればあまり心配はいりません。薄着で涼しい環境を作って下さい。

5、夏肥り
 冷房などが完備されて、生活環境が良くなったこと、テレビや室内ゲームの充実により外で遊ぶことが少なくなったこと、外で遊ぶ場所も少なくなりました。お菓子が常にあり、冷蔵庫にはジュースがあります。肥満傾向の子供は運動が苦手ですし、汗かきのため冷房の中で遊ぶのを好みます。学校へ行っていると休憩時間に皆と遊んで運動するのですが、家では運動量が非常に少なくなり肥ります。お菓子を置かない、冷蔵庫にはジュースを置かない、麦茶のみといった環境を整え、夕方に家族で散歩などをして下さい。




乳児の湿疹

 赤ちゃんの顔や体に出来る赤い湿疹を総称して乳児湿疹と呼びます。汗や食べこぼしの汚れ、皮脂の汚れなどが原因となります。

1、あせも(汗疹)
 汗腺の出口(汗の出る穴)がほこりや汚れで塞がれて炎症が生じた状態で、高温多湿という環境で生じます。梅雨から夏に小さな子供によくみられ、痒がります。最近はチャイルドシートの影響で小さな子の背中によく見かけます。
 汗腺の詰まり方には2種類あり、日焼けなどで皮膚の表面で汗腺が詰まると白っぽい小さなぶつぶつになりますが、もう少し中のほうで詰まると赤みがでます。一般にはこの赤みがあるのを汗疹といいます。

予防と治療
 高温多湿な環境では、汗も多くて蒸発もしませんので汗腺の皮膚への出口がつまりやすくなります。汗をなるべく早く発散させることが汗疹の予防には重要です。風通しを良くし、通気性が良く汗を吸い取りやすい薄手の綿の服を使用し、汗をこまめに拭き取って下さい。入浴やシャワーも必要です。ゴシゴシこすらずに、石鹸を使用して手でやさしく洗ってあげて下さい。
 冬に厚着をさせたり、暖房のかけ過ぎで汗をかいて汗疹になることもあります。暖房が効いた部屋では薄着にして下さい。
 基本は@吸湿性のよい下着(木綿など)を着せる。A風通しを良くする。B皮膚を清潔に保つ。Cシャワーなどを適宜使用するなどです。

注意点
 痒みを伴いますので引っかき傷をよく作ります。その傷から細菌感染をおこし、「とびひ」などになります。最初は小さな薄い膜の水ぶくれですが、すぐ破れてジュクジュクになります。破れたところの液が他の傷に付くと同じような水ぶくれが出来て破れます。

2、とびひ(伝染性膿痂疹)
  「とびひ」は正式には伝染性膿痂疹といい、虫刺されや汗疹ができ、湿疹が悪化しやすい夏に多発する病気で、子供によくみられます。虫刺されや汗疹の掻き傷、擦り傷などに細菌がつき、そこを触った手で他の場所を掻くと飛び火してどんどん広がる病気なので、俗に「とびひ」といわれます。直接接触によって伝染することが多く、夏期を中心に保育園や幼稚園での集団発生もみられますが、最近では温水プールの普及により一年中みられるようになりました。
 とびひは、アトピー性皮膚炎、虫刺され、汗疹など皮膚に傷があればどこでにも出来る可能性があります。季節は、高温多湿で汗がいっぱい出て、皮膚も不潔になりやすい7〜9月に起こりやすく、年齢は1歳〜6歳ころまでの子どもに多い病気です。

 伝染性膿痂疹は、臨床像と原因菌から水疱性膿痂疹(水膨れが出来る)と痂皮性膿痂疹(かさぶたが出来る)の2種類に分類されます。

1)水疱性膿痂疹
 黄色ブドウ球菌(ファージII群71型コアグラーゼV菌が多い)によるもので、初め直径1〜2mmの紅斑を生じ、数時間で小水疱となり、これが拡大して容易に破れびらん面を形成します。
 最初は1_程度の小さな水疱から始まりますが、だんだん広がり2〜3日で指頭大になります。水疱は破れやすく、破れると「びらん(ただれること)」になり、そこに薄いかさぶたができます。水疱が破れて液が他に付くと感染して、どんどん増えていきます。鼻孔のあたりから始まって、おなかや背中、手足と広がることが多い病気です。
 ひとつひとつの病巣はだんだん乾燥して10日間くらいで治りますが、全体が治るまでには2〜3週間ぐらいかかることもあります。普通は発熱はみられません。

2)痂皮性膿痂疹
 多くはA群溶連菌によるもので、小紅斑から小膿疱、びらんとなり、やがて黄褐色の厚い痂皮(かさぶた)となります。A群溶連菌によるものは腎炎を起こすことがありますので抗生物質の内服が必要です。

予防と治療
 とびひは、皮膚にブドウ球菌や連鎖球菌が入り込んで発症しますので、治療は、まず病変部をイソジン液などの消毒液で消毒(消毒液での消毒は避け、シャワーで皮膚の清潔を保つほうが良いという考え方もあります)し、抗生剤入りの軟膏を塗ります。触ったり、掻いたりすると広がっていくので、小さいお子さんの場合は、ガーゼなどで被うなど工夫が必要です。
 かゆみを伴うことが多く、子供は特にかゆみを我慢できずに掻きむしり、その手で他の場所や他人に伝染させますので、掻くことを予防するためにかゆみ止めの抗ヒスタミン剤の内服が処方されることもあります。
 予防には皮膚を清潔に保つことが重要ですので、毎日シャワーを浴びて汗をこまめに流しましょう。罹患した際には、石鹸を用いるのはかまいませんが、発疹が湿潤しているときはシャワーで石鹸分を良く洗い流すようにし、浴槽にはつからないほうが良いようです。特に他の乳幼児と一緒の入浴は避けて下さい。タオル類の共用も避けましょう。伝染防止のため、びらんが乾燥するまでは幼稚園や保育園などは休ませてください。爪をきちんと切り、外出後の手洗いを励行して手指の清潔に努めましょう。

 はじめにきちんと手当すればよいのですが、とびひはとても広がりやすいものです。とびひのようだと思ったら、皮膚科か小児科で受診して、完治するまできちんと治療してください。症状の強い場合は抗生剤を内服したほうが早く治ります。また、かゆみ止めの飲み薬を使うこともあります。

3、乳児脂漏性湿疹
 頭、眉、耳、鼻の周囲を中心とした顔面が主ですが、首やわきの下にも見られることがあります。最初は皮膚が赤くなり、小さな盛り上がった湿疹になり、しばらくすると脂性の黄色いかさぶたの様な湿疹が付いてきます。頭髪部や眉毛に黄色い脂っぽいかさぶたが付くことで気づかれますが、放置しておくと臭いがしてきます。痒みは強くありません。
 生後3〜4週頃に出来始めて3〜4か月頃には自然治癒します。赤ちゃんの皮膚はお母さん胎内で女性ホルモンの影響を受け、皮脂の分泌が盛んなために脂漏性湿疹が出来るのですが、生後3〜4か月を過ぎる頃には女性ホルモンの影響が減少し、脂漏性湿疹は出来なくなっていきます。逆に、それ以降の子どもは皮脂の分泌が減少したままですので、皮脂の分泌が盛んになる思春期まで乾燥肌が出来やすい状況になります。

予防と治療
 入浴して石鹸で皮膚の汚れを落として下さい。強くこすると赤ちゃんの皮膚を傷つけますので注意して下さい。石鹸分は十分流して落として下さい。

4、おむつかぶれ(おむつ皮膚炎)
 赤ちゃんのおむつの当たる部分にはじめは淡く赤くなり、隆起した小さな湿疹、ひどくなると真っ赤になって皮がむけます。汗や尿、便などの刺激が原因です。お尻を拭くときの機械的刺激や、おむつがこすれる刺激が原因となることもあります。
 便がやわらかく、尿の回数が多い低年齢の赤ちゃんに多く、おむつの中が蒸れやすい夏に多くみられます。下痢が続いたとき、入浴やお尻を洗う回数が少ないとき、おむつ交換が遅れたときにも起こりやすくなります。

予防と治療
 症状が軽ければお尻を洗い、通気性を良くするだけで数日で治ります。症状が強い場合には外用薬(軟膏)での治療になります。
 こまめにおむつを取り替え、ひどい場合には石鹸でお尻を1日数回やさしく洗います。お尻の皮膚を清潔に保つことが重要です。洗った後はすぐにおむつをせず、やさしく風を当てたり、乾いたガーゼで押さえて湿り気を取り、お尻の皮膚を乾燥させてからおむつをすることも大切です。

5、かぶれ(接触性皮膚炎)
 皮膚に原因物質が接触して起こる皮膚炎です。皮膚に接触付着した物質の刺激によるものと皮膚に接触した物質によるアレルギーによる場合の2つのタイプがあります。接触した部位に紅斑(赤くなる)、小丘疹、水泡(水ぶくれ)が出現し、強い痒みが伴います。アレルギー性の場合は接触して1〜2日後に症状が現れる場合があります。

予防と治療
 原因物質がわかれば触れないように注意します。外用剤(軟膏)を使用しますが、痒みの強い場合は痒み止めの内服薬も使用します。

6、蕁麻疹(じんましん)
 皮膚が蚊に刺された後のような赤い盛り上がる皮疹が特徴で、大きさも形も大小様々で、全身どこにでも出来ます。痒みの強いのが特徴です。食べ物、薬、細菌やウイルス、虫刺されなどが原因となります。食後1時間までに蕁麻疹が出れば食事内容に原因があると考えますが、一般的に原因の特定は困難です。また、体調の悪いときに出やすくなります。急激な温度差による寒冷蕁麻疹、日光に当たると出る日光蕁麻疹などもあります。

 通常は数時間以内に自然に治りますが、重傷な場合は、口腔内や気道が腫れて呼吸困難になったり、血圧が低下してショック症状が現れることがありますので油断は出来ません。
予防と治療
 原因が明白な場合は、原因を避けることが重要ですが、体調の悪い時には原因としては疑わしいものでも避けるようにして下さい。原因が明白で無い場合には食事制限は不要です。食事制限は子どもの発育に悪影響を及ぼします。血液検査での原因究明は、あまり当てになりません。
 蕁麻疹出現時は冷やしたタオルで蕁麻疹を冷やすと痒みが弱まります。涼しくしてあげることが痒みを和らげるのに重要です。蕁麻疹が持続する場合は薬による治療が必要となりますが、蕁麻疹は出現する場所が時間と共に変化しますので外用剤(痒み止めの軟膏)は使いづらく、内服薬の処方が一般的です。



乳幼児のかん虫、反抗期、こだわり

1、かん虫
 赤ちゃんが激しく泣きやまない、夜泣き、食べない、すぐ不機嫌になる、奇声を発する、すねて動かないなど親の言うことをきかない、親が困ることをするなどを「かんむし」と表現します。この子はかん虫が出て困るや、「虫封じ」をしてもらう、「かん虫を切りに行く」ということも耳にします。虫封じの祈祷や虫封じの漢方薬の宣伝を目にします。かん虫を見た人はいません。大人の思うようにならないことを「かん虫が出た」と表現します。子どもは成長するにつれ自分の気持ちが出てきます。自分の思うようにならなければ子どもも腹が立ちます。子どもの思うようになることは少ないのです。子どもは大人とは異なりそれを表現する力を持っていませんし、ストレスを発散する手段もありません。自我が芽生え、腹が立つことを覚えると「かん虫」が出てきます。子どもがうまく成長している証拠です。病気のこともありますが稀です。まして、祈祷や短期間の薬が効くとは思われません。ただ、これらを行うことで親や家族が安心するという心の平穏さが取り戻されれば、子どもも精神的に安定するという有用性はあるかもしれません。
 しかし、親もしんどくなりますので、何とか改善しないかと考えるのは当然です。疲れたら子育て中の友人か小児科専門医に相談しましょう。気持ちが楽になります。治すことをあせるより、かん虫とうまく付き合うことを考えて下さい。親が子どもと同じように感情的にならないように心がけて下さい。心にゆとりの持てるときは静かに見守ってあげて下さい。かん虫の強い子は感受性の良い子ですので、これをうまく生かしてあげて将来は感性の優れた人間に成長するように期待して下さい。
 20年ほど前になりますが、剃刀の刃で手掌に小さな傷をつけて「かん虫切り」を行うという地方の「まじない」で、剃刀を何人もの子どもに使用したのでB型肝炎が何人にも感染したことがあります。体を傷つけるような「まじない」は止めて下さい。

2、第1反抗期
 1歳頃までは親の言うことをきき、親を真似る「いい子」であったのに、2歳を過ぎる頃になると何でも「いや」と言うようになる。いやと言いながら制止する親の手を振り払ったり、物を投げたり、噛み付いたりといった抵抗をする「ほとほと愛想を尽かす」状況となります。一旦、機嫌を損ねると。自分のやりたいことや好きなことまで「いや」を貫きます。最初の反抗期です。
 この頃には行動能力も増加し、知的関心も増してきますので、自分から積極的に色々やりたがります。しかし、危険であったり、周囲が困ることは親が禁止しせざるを得ません。しかし、子供は状況が理解できていませんので、親の「いけません」に対して、子は「いや」を連発して抵抗を試みます。つまり、自我が芽生えてきたということです。この年齢では世界の中心は自分であり、自分のしたいことは何でもするのが普通なのです。また、この頃ではしてはいけない理由を説明してもそれを理解できるほどの能力には至っていません。5歳ころまで待つ必要があります。この頃は自己中心的で、自分お考えを通そうとし、親の考えと衝突しますが、子供は言語表現力は十分でなく、自分の気持ちを親にわかってもらえないし、周囲の危険な状況なども理解できませんので、怒って物を投げつけたり、泣きわめく事になります。しかし、怒られ、注意されることによって自分の欲求はどのようなときに是認されたり拒否されたりするのか、どのような行動がほめられ、叱られるかを学んでいきます。この結果、他人の反応を予見し、社会に対する適応行動が発達していきます。してはいけないことを我慢し、しなければならないことを認識、体験することの大事な時期ですので、大暴れしている時でも過剰になだめたり、ご機嫌をとることは避けて、静観することも必要かもしれません。
 子供が親に依存していた状態から自立していくために自我の芽生えは大切であり、逆に反抗しない子供を心配しなければならないのです。親は子供の勝手な行動に腹が立っても、反抗期に達したことを喜ぶ方に気持ちを切り替えるような心に余裕を持って接して下さい。意思が強く、自己の判断で行動できる立派な大人への第一歩なのです。反抗しない子供の場合、体が虚弱か反応するエネルギーがない、親が厳しすぎて怖くて反抗できない、何でも子供の思うとおりに甘やかしすぎるなど、反抗しない原因を考え、それを改善するべきかもしれません。子供が何事にも反対するのは、それによって自分の存在を認めさせ、また自主独立を宣言しているという考え方もあります。子供の意思に反して、強制的に何かをさせようとしたりせず、上手にほめて、他人に頼らないように励ましてあげることで、親子とも和やかな気持ちでいられますし、子供は自立していきますので、最終的に親は子供にかかる手間が少なくなり楽です。

3、子どものこだわり
 2歳頃になると歩いたり、走ったり、言葉を理解したり、さまざまな動作が可能となります。行動の幅が広がると同時に、行動が自分で出来るようになることに喜びを感じるようになります。色々な事への兆戦が行われます。また、この頃には自分がやりたいことは何でもしようとしますし、そのやり方にしてもその子その子の独特のやり方がある場合があります。物の置いている位置にこだわり、他人が動かすと叫んだり、わめき散らす。服の着る順番やボタンのかける順番でこだわり、他人が手伝ったりすると「自分で、自分で」と怒る。手伝ったり、順番が違うと時には最初からやり直すことすらあります。朝などでは大人は急いでいるのにこれをされると、こういった時期だとわかっていても、理性と感情は別で、我が子ながら腹が立ってきます。
 小児科の診察でも、この年齢になると服を自分で上に上げて診察しやすくしてくれる子供がいます。これを親や看護婦が手伝うとすごく怒ります。それはその子にとっては非常に重要なことなのだと思います。自己というのが強く出始め、色々とこだわりだします。これも親のいう「反抗期」です。ただ、子供は反抗しているのではなく、急いでいるとか子供を楽にしてあげようとする大人の都合や考えを理解できていないだけです。周囲のことを考慮出来るようになるにはあと数年が必要で、この時期では幼すぎて不可能です。当然、この時期は自己中心的で自分が世界の中心です。大人の思うようにはいかない時期に入ったと諦めて下さい。
 他人のことや、その後の結果などはまったく眼中にはなく、大人の手に負えなくて、大人が我慢できなくなる。「かん虫」が出たといわれます。大人と子供の考え方や行動の仕方のギャップに大人が耐え切れないのです。「かん虫」の子供の背景を考えてあげて下さい。親に依存していた状態から、自己が育ってきて、子供が自立するようになる過程です。他人の言いなりになる子供よりは自分を表現できる子供のほうが頼もしくはありませんか。わがままな自己は困りますが、うまく自己を育ててあげて下さい。親としては試練ですが、子供や子育てというものを理解して、我慢が必要です。ただ、我慢も限界があります。小児科専門医に相談して下さい。

4、対応
 今まで自分では出来なかったことも自分でやってみる。やって自信が出てくる。「もう2歳になったからね」「お兄(姉)ちゃんになったね」「もう、赤ちゃんとちがうからね」こういう自尊心をくすぐるような言葉に弱く、我慢をしてみたり、一生懸命に言われたことをしようと努力します。多少ですが、言い聞かせれば我慢できますし、親からほめられたり、認められることを喜びます。何でも珍しく、聞きたがり、まねしようとします。自分でやってみて失敗をしながら自分で出来たことに自信を深め、自立心が育ちます。子供も自己中心的な言動が周囲に受け入れられないことを感じたり、大人の期待に応えようと頑張ったりして、とまどいやストレスを感じています。子供を抱きしめてあげて下さい。子供は親や周囲の愛情の中で元気に育ちます。
 危険な場合やされては困ることなど、どうしても親として譲れないことや抑えねばならないことには妥協をしない。ダメなものはダメというけじめは必要です。ただ、子供の話を聞いてあげて下さい。「なぜ、したの」「なぜ、したいの」の親の問いかけに子供は子供なりに説明してくれます。それに対して親の考えを説明してあげて下さい。しかし、この年齢の子供には大人の理屈は通用しませんし、言って聞かすなどはまだ無理です。甘やかしと違うけじめを考えて下さい。親を困らせると親が振り向いてくれる、親がかまってくれる、来てくれるなど、子供としては親の注目と愛情がほしい、甘えたいという表現である可能性も考慮してあげて下さい。また、「静かにしていなければならない」「座って待っていなければならない」「走ってはいけない」などは大人の決まりごとや倫理であり、子供は自分の感性で行動するのが個性です。困ったときは子供をおもいきり抱きしめてあげて下さい。ダメなことはダメでも、少しだけダメな範囲を緩めてあげて下さい。外見にとらわれる必要はありません。個性を大事に伸ばし、感性豊かな伸び伸とした、自分で考え、決定できる子供を育てて下さい。



乳幼児の水分補給

 最近は育児用粉乳(ミルク)や市販の離乳食、果汁や乳児用のイオン飲料水などが色々増えて乳幼児に対する食事や水分補給の選択肢が増えました。ただ、企業やマスコミはその良さを宣伝しますが、そういった宣伝文句を全て考慮して育児をしなければならないのでしょうか。必要な部分もありますが、宣伝に踊らされ過ぎてはいないでしょうか。ゆったりとした子育てをお願いします。

1、体の水分
 成人では体の60%は水分で構成されていますが、子供ではさらに多く、生後数か月までは70%、乳幼児期では65%が水分です。通常はその水分の約5分の1が1日に失われるため、それとほぼ同量の水分補給が必要です。この水分補給というのはお茶やイオン飲料水の水だけではありません。ご飯やおかず、果物、お菓子の中にもかなりの量の水が含まれておりますし、母乳やミルクも80%以上は水分です。ミルクや食事を十分食べていれば、水分の摂取量は十分であり、通常は特別な水分補給まで考える必要はありません。お風呂上りに・・・・といった宣伝に乗る必要はありません。

2、水分補給を考慮すべき状態
 食べたり、飲んだりして体内に入る水分と汗、尿、便や皮膚からの不感蒸泄などで失われる水分とのバランスが問題となります。体温が高くなると皮膚からの不感蒸泄が多くなり、水分を余分に必要とします。子供は発熱や嘔吐、下痢を伴う病気によくかかります。熱や嘔吐、下痢では体外に失われる水分が多くなり、また食欲もなくなり体内に入る水分が少なくなりますので脱水状態になりやすくなります。こういった場合は食事以外の水分補給を考慮しなければなりません。

3、脱水症の症状
 脱水になると口唇や口腔内が乾燥し、尿量が減少してきます。進行すると元気がなくなり、意識がはっきりしなくなり、痙攣なども生じます。元気で、口唇や口腔内がみずみずしく、尿は多少減少する程度であれば問題はありません。口唇や口腔内が乾いてきたり、尿が出にくくなりだしたら早く小児科専門医を受診してください。

4、脱水症の原因
 発熱や嘔吐、下痢を伴う病気は、その程度が強ければ全て原因となります。この中でも冬に多い嘔吐下痢症は、嘔吐ために水分が飲めないのに加え、頻回の水様下痢のために便中に多量の水分が失われ、脱水症に特に注意が必要な病気です。また、炎天下で長く遊んでいたり、汗をたくさんかいたりしても脱水になります。

5、水分補給の方法
1)嘔吐や下痢のない場合
 何でも好きなだけその年齢にあった飲料や食事を与えてください。食欲があまりなく、1回の量が少ないと考えられる場合は頻回に与えてください。

2)下痢がある場合
 年齢により異なりますが、なるべく普通の食事を続けるように努力してください。@母乳はそのまま与える。A育児用ミルクもそのまま与える。B離乳食は続ける。たんぱく質や脂肪分は多少控える。離乳食は育児用ミルクよりも下痢時には消化吸収が良い場合があります。C牛乳は止める。下痢が続けば腸管での乳糖を分解する力が低下し、下痢を助長する可能性があります。Dジュースや果汁も止めるか少なくする。糖分濃度が高いため下痢を助長する可能性があります。Eお茶や乳幼児用イオン飲料水は積極的に与える。

3)嘔吐がある場合
 子供の胃は構造上、嘔吐しやすくなっており、よく吐きます。嘔吐が強い場合、食事はいったん中止し、お茶やその年齢にあったイオン飲料水に限定し、水分が普通に飲めるようになってから食事を再開します。脱水を心配して大量の水分を一度に飲ませようとするとよけいに嘔吐します。せっかく飲んでも嘔吐すればゼロです。最初は少量ずつ頻回に与えてください。嘔吐しにくくなります。牛乳や脂っぽい食事は嘔吐しやすくなりますので止めてください。

4)注意点
 @嘔吐や下痢ではまず、小児科専門医を受診して原因を探す必要があります。A嘔吐や下痢は体に害のあるもの、不要なものを体外に出す生体防御作用です。原因が不明な場合は嘔吐や下痢を薬で無理に止めることは避けてください。余計に病気を重くすることもあります。B嘔吐も下痢もひどい場合は点滴での水分補給が必要です。



乳幼児の体重増加不良

 体重が軽い原因には@早産(予定日より早く生まれた)、子宮内発育不全(子宮内での発育が悪かった)などの出生時の体重が少ないために、体重増加はしているがまだ低体重である例とA出生後に体重の増加が悪く低体重になった例とが考えられますが、単に体重増加不良と言う場合には通常は後者を指します。原因としては単に総カロリーや食事の総量の摂取不足のみならず1つ1つの栄養素が質的(内容)、量的に少ない場合や同じものばかりを食べるなど、食物の相互関係が配慮されていない場合、また消化吸収能力、体内での利用の程度、児の必要量が亢進している状態などが考えられます。単に体重増加が悪いからといって栄養不足と単純に判断したり、母乳から人工栄養に代えないで小児科専門医に相談して下さい。

1、体重増加不良の判定
 一般に低体重とは3パーセンタイル以下を指します。この数値は、統計上同じ年齢の100人の子どもを身長または体重順に並べたときの前から何番目かということで、3パーセンタイル以下とは同年齢の集団の中で100人中3人以下ということです。

1)体重増加不良とは
 一般に体重増加不良というときは、体重の上昇が標準体重の上昇に比べ劣ることをいいます。少しの増加速度の低下でも、長い経過では体重は3パーセンタイル以下となることがありますので、体重の増加不良に気づいたら小児科専門医を受信して下さい。ただ、赤ちゃんはぽちゃぽちゃした太り方から独歩後の引き締まった体つきに変化します。この間にはしばらく体重増加の見られぬこともありますし、毎日一定量ずつ身長や体重が増えている訳ではありません。1週とか1か月といった間隔で見ても増えすぎていたりあまり増えなかったりしていることも多いので長い目で見ることも必要です。

2)体重増加不良の判断のしかた
 厚生省の乳幼児身長・体重曲線上(母子手帳に図がありますが、もう少していねいな図は医院内にあります。気軽にお申し出ください)に今までの身長、体重の測定値を記載してみて下さい。曲線上のある一時点から体重増加が悪く、徐々にずれていく場合は受信して下さい。
 現在の体重が標準より小さくても曲線を横切って上昇している場合、あるいはそこまでいかなくても曲線と平行して増加をみる場合は体重増加良好と判定してよいと思います。
 低出生体重児でも同様に低体重でも標準曲線に平行した上昇を認めれば体重増加が順調と判断できますし、そのうちに追いついて行くと思います。
 急性感染症や下痢、嘔吐で体重は減少しますが、治った後は順調にすぐ元に戻ります。順調な体重増加がこない場合は要チェックです。




熱傷(やけど)

高い温度の物質が皮膚に一定時間以上接するとやけどになりますが、小児の皮膚は大人に比べて薄く、深いやけどになりやすい傾向があります。接触直後から発赤や腫脹が出てきますが、その後も腫れや水疱が数日進行する場合もあります。また、40〜55度くらいの比較的低い温度でも持続的に加熱されると低温熱傷というやけどになります。

1、対処法
応急処置としては出来るだけ早くやけどの部分を冷やすことが大切で、冷やすことでやけどの進行を止め、痛みも抑えることが出来ますし、やけどの跡が残りにくくなります。
1)近くにあるコップの冷たい水や冷たいお茶でもまずかけて下さい。
2)水道水を流しながらや洗面器に溜めながら15〜30分間冷やします(8℃程度が良いのですが)。顔や体幹部では清潔な濡れタオルなどで、衣服を着ている場合は衣服ごと冷やして下さい。強い水流は水疱になった皮膚をはがす場合があり、冷水はシャワー状か器に溜めながら冷やすのが無難です。やけどの程度によっては衣服に皮膚がくっついている場合があり、服を無理に脱がせようとすると皮膚が一緒にはがれる恐れもあります。服は冷やした後に脱がすか切断します。保冷剤や氷などを使用する場合は冷やしすぎないように、広範囲であれば身体が冷えすぎないように注意して下さい。
3)炎症を抑える作用のある軟膏も有用です。
4)手指のやけどの場合は指輪などをあらかじめ外すようにします。受傷後時間がたつと指が腫れて抜けなくなり、指輪を切断しなければならないこともあります。
5)水疱内容液には皮膚再生を促す成分が含まれておりますし、水疱部が皮膚に覆われていることで細菌感染が防止され痛みが緩和されますので、水疱は破らないようにして下さい。逆に、水疱は切り取ってしまい、たっぷりの軟膏で覆ってしまう湿潤療法の方が細菌感染が少なく、良いといった意見もあります。結論は出ていませんが、自分で対処するには水疱を破らずに保護する方が簡便と思います。
6)水疱が破れてしまった場合は軟膏をたっぷり塗って傷口を覆って、新しく出来た皮膚をガーゼなどに付着させてはがさないようにして下さい。新しくできた皮膚をはがすと治るまでの時間が長くなります。また、幹部を清潔に保って細菌感染を防いで下さい。
7)浅いやけど以外は傷跡が残ります。浅いやけどの場合でも赤みや茶色の色素沈着が残る場合がありますので紫外線対策の遮光は有用です。
8)重症度はやけどの深さのみで決定するのではなく、受傷した範囲によっても対処法が異なる場合があります、子どもでは体表面積の10%以上では生命の危険があると判断します。手掌で約1%、胸部、腹部、片腕、幼児の片足(成人では18%)はそれぞれ約9%になります。
 水疱ができた場合や範囲の広いやけどは受診して下さい。

2、気道熱傷
口や鼻の周りのやけどの場合は、皮膚はたいしたことがなくても、熱い気体や水蒸気などを吸いこんでいる可能性があります。気道粘膜が腫れて、ひどい場合には気道閉塞を生じさせるほどの気道熱傷を伴っていることがありますので、顔面のやけどで喉が痛がる場合には早期の受診が必要です。

3、熱傷の予防
子どもは大人の想像を超えた行動をしますので、加湿器の蒸気、テーブルの上の熱いお茶やコーヒ、味噌汁、麺の汁、ポットのお湯、トースターやグリル、ストーブ、アイロン、炊飯器、花火、熱い風呂など色々なものに注意が必要です。また、電気炊飯器やポットの水蒸気の噴出口やファンヒータの吹き出し口に触れてしまう幼児のやけども増えています。湯気は熱湯以上に温度が高いので短時間でやけどになります。
小児におけるやけどの発生パターンを考慮しながらやけどを未然に防ぐようにして下さい。@熱湯や汁物などの高温の液体を小児の手の届く範囲に放置しない。A子どもがテーブルの下から引っ張りますので、テーブルクロスなどは使用しない。B炊飯器やポットなどは子どもが興味を示します。C温風ヒータの吹き出し口も興味を示しますし、アイロンやストーブなども興味で触ることに注意する。D電気のソケットを舐めたりコンセントにスプーンなどの金属を差し込んだりすると感電することがあります。ただ、いくら注意をしてもやけどを完全に予防することは出来ませんので、初期対応を知っておくことが重要です。

4、低温熱傷
低温熱傷は心地よいと感じる温度(40~55℃)のものに長時間接することで起こります。50℃では3分間、42℃でも6時間程度接触し続ければ皮膚の細胞が変化することがあるという国民生活センターのデータがあります。気づいたら軽度の赤みがあり、ヒリヒリするくらいであった皮膚が時間の経過とともに悪化していき、1日後には水ぶくれができてジュクジュクするという経過をとるのが一般的ですが、ひどくなるとその後に皮膚が白く変色する場合もあります。低温熱傷は皮膚の深い部分まで達しますので、深いやけどになりやすい傾向がありますが、痛みは感じにくく、特に子どもではやけどをしたことすら気づかないこともあります。
長い時間熱源に触れているということは、弱火で長時間調理をすると食材の内部まで火が通るのと同じです。特に、血流で常に冷やされやすい表皮よりも皮下組織である脂肪組織などの血流が悪く冷やされにくい深い部分にまで損傷が及びやすく、結果的に深い部分のやけどになります。特に皮膚がカイロなどの熱源で圧迫された状態が続くと、血管が圧迫されて血流が悪くなり、熱が1か所に留まりやすくなってダメージが大きくなります。非常に軽症と考えられる場合以外、低温熱傷では皮膚科を受診した方が良いと思います。

5、低温熱傷の予防
使い捨てカイロ、湯たんぽ、電気あんか。電気毛布、電気こたつなどの冬に手放せない暖房グッズは熱すぎず程よく温まることが出来ますが、同じ局所に長時間熱が加えられる状況になりやすく、低温熱傷の発生源になります。@貼るタイプの使い捨てカイロは必ず衣服の上に貼り、同じ場所に長時間当てないようにして下さい。A湯たんぽや電気あんかなどは設定温度を低くしたり、厚手のタオルや専用カバーに包んで直接皮膚に接触しないようにして下さい。ただ、子どもや老人ではカバーで包んでいても低温熱傷が起こることがありますので、安心とはいえず、就寝前に早めに布団の中にセットして、布団を温めておき、就寝時には電源を切ったり布団から出すなどの対応が安心できます。Bストーブの前やホットカーペットの上、床暖房の上、電気こたつの中で眠らないようにして下さい。あまり動かない、寝返りのうてない赤ちゃんや小さな子どもがホットカーペットや床暖房の上に直接寝てしまうと、低温熱傷以外にも脱水症や熱中症になる可能性があります。乳幼児はまだ汗腺が十分に発達してませんので、体温の調節が悪く、自力の寝返りも不十分です。風邪をひかないように冬場は厚着をさせられているケースがほとんどなので、ホットカーペットや床暖房があり、その上に掛け布団を併用して寝かせれば、乳幼児の体温は危険な領域まで上昇する可能性があり、熱中症です。温度調節を低温にしても変わりません。また、ホットカーペットによる低温熱傷のリスクは有名で、製造している大手は全社とも、就寝用としての使用を禁じています。ホットカーペットや床暖房の上では、いかなる場合も寝させないで下さい。



熱性けいれん

 発熱時の痙攣には驚かされますが、その対応を知っていれば多少安心できると思います。熱性痙攣は一般的には全身の筋肉が硬くなり(硬直性)、次いでがくがくとした動き(間態性:手足が少し屈曲、伸展する。口ががくがくする。)になります。この時、口から少量の泡を出すことがあります。一般に5〜6分で治まります。病院でおこることは稀ですので、医師はその状況がわかりません。心配で、気が動転することは当然で、理解できますが、よく観察してその状況を医師に教えてください。医師はその状況を聞いて診断します。

熱性けいれん
1、熱の出始めにおこることが多い。
2、生後6か月〜6歳の頃におこりやすい。
3、親や兄弟に熱性けいれんがある場合におこりやすい。
4、特殊な場合を除き後遺症は残さない。
5、舌を噛むことはまずない。口の中に指や物を入れない。思わぬけがをする場合が多い。
6、数分で治ることが多い。目が上を向いているか、手足の動きが左右一緒かなど観察してください。
7、5分以上たって(少し様子を見て)も治る気配がない場合には救急車を呼んでください。
8、解熱剤の使用は慎重にする。解熱剤の効果が切れて熱が再上昇する時にも生じやすい。
9、予防接種は出来るかぎり受ける。病気にかかると熱が出て熱性けいれんがおこる可能性がある。予防接種は病気の予防である。
10、薬による予防

 熱発の時に熱性けいれんを予防する薬がある。熱性けいれんが頻回におこる児や長く続く児、親が児の熱性けいれんを見るのが耐えられない場合などに有用である。薬を家に保管しておいて熱が出たと同時に使用する。


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