低身長
身長は成人になってからは、小さくても大きくても大きな問題はありません。ファッションモデルになることを夢見ているのであれば身長はかなり高くないと困りますが、ほとんどの方は問題とはなりません。しかし、学校での集団生活の中や多感な思春期では問題となることが意外とあります。また、親や保護者の方も同級生の身長と比較して一喜一憂することが少なくありません。
低身長、身長増加不良
1、身長についての一般的な考え
1)男子は17歳、女子は15歳頃まで身長増加があり、それに見合った体重増加がある。
2)身長増加率は年齢により差があり、1年間でも伸びの良い季節と伸びの悪い季節がある.
3)身長の伸び率、伸びる時期、最終身長は個人差がある。遺伝や環境によって異なる。他の子と比較するべきではない。
2、低身長の主な原因
1)成長ホルモン分泌不全症(成長ホルモンの分泌が少ない)
2)甲状腺機能低下症(甲状腺ホルモンの分泌が少ない)
3)愛情遮断(子どもが愛情に飢えている)
4)骨の病気(骨が伸びて行きにくい)
5)ターナー症候群などの染色体の異常
6)特に異常はないが@低出生体重児(生まれた時に小さく、まだ追いついていない)A家族性(家族全員が低身長)B思春期遅発症(小学校高学年生〜中学校生で思春期がまだ来ていない。思春期が来ると伸びる可能性が高い)など
3、診断方法
それまでの身長・体重の記録、手の骨のレントゲン(手根骨)、成長ホルモンや甲状腺ホルモンの分泌能力などを調べる。
4、治療
成長ホルモン、甲状腺ホルモンは分泌が少なければ補充をする。思春期の来ない子には思春期の発達を出させる事が出来る。
低身長の場合、成長ホルモン分泌が悪く、一定の基準を満たすと小児慢性特定疾患に対する公費負担制度が利用できるため無料になる。
<解説および補足説明>
1、低身長の子どもは引っ込み思案?
1)対人関係ではやや引っ込み思案で自分の中に引きこもりがちな面がある。
2)学校は集団生活の場であるため様々な問題が生じる可能性がある。
a)身長や体力にあまり差があると皆についていきにくい。
b)外見だけでなく精神状態も子どもっぽいため、年齢より幼い役割しか期待されない(身長および精神年齢は暦上の年齢ではなく骨の発育年齢に一致する)。
c)背の低いこと、体力が弱いことに対するコンプレックスがある。特に中学、高校の思春期に強く出る。
d)思春期の出現が遅れるため、その年齢で得るべき社会性や異性に対する感受性が育ちにくい。
2、骨の伸びについて
発育時期の子どもの手や足の骨の両端には成長層といわれる骨を伸ばすところがあります。この成長層に適度な圧力が加えられると成長層が活発化され、骨が順調に伸びる。適度な運動は成長層に圧力をかけることになり、身長増加にプラスに働きます。どのスポーツも楽しく、適度にすることで身長に良い影響を与えます。ある特定のスポーツが特に良いということではありません。
3、成長ホルモン
成長ホルモンは脳内にある下垂体から分泌されるホルモンで、名前が示すようにヒトの成長に大きく関与しています。それ以外にも血糖や体脂肪、蛋白合成に影響を与えます。成長ホルモンが少ないと低身長になり、多すぎると巨人症となります。
成長ホルモンは1日のうちでも数回は高くなったり低くなったりするため、1回の検査では成長ホルモンが十分分泌されているかどうかはわかりません。ソマトメジンCという血液での値がある程度参考となるが、一般には成長ホルモン分泌負荷テストという検査をします。それは、低血糖やある種のアミノ酸や薬が成長ホルモンを分泌することがわかっているため、これらを投与して成長ホルモンが本当に分泌されるのか調べる方法です。約2時間の間30分毎に採血を行う方法で、点滴をすれば点滴のところから採血をするため痛いのは最初の点滴をする時だけである。
この検査は早朝に行う検査であるため、当院では入院する必要はありませんが、朝に来ていただいて検査することになります。準備の都合上、予約をお願いします。
4、治療が必要と考えられる子は?
統計上同じ年齢の子を100人身長順に並べると、前から1人または2人が公費負担で無料で治療できる可能性があります。特に日本人の身長曲線(ご希望の方はさし上げます)の伸びから離れていく(日本人平均身長との差がだんだん大きくなる)人にその可能性が強い。クラスや学年内で身長がかなり低い、ほかの子が伸びるのにあまり伸びないなど感じたら可能性があります。身長の伸びの程度も参考にしますので、受診時には今まで測定された身長のデータを持参して下さい。
5、成長ホルモン療法
成長ホルモンは成長障害の改善を目的として行われ、血液検査などで成長ホルモンの分泌が悪いことが証明できた低身長の子供に行われています。成長ホルモンは身長を伸ばす以外にも筋肉増強、体脂肪の減少、動脈硬化増強因子の減少などにも働きます。現在の成長ホルモン療法は成長ホルモンの分泌が少ない分を補充することを目的として行われているため副作用は生じにくいですが、@多量では血糖値を上昇させる。A非常に稀だが、骨や関節に異常をきたすことがある。B副作用といえるかは不明ですが、成長ホルモンは細胞の増殖を促すため、悪性腫瘍がある子(非常に稀)では腫瘍細胞の増殖を促進させる可能性があります。
成長ホルモンは皮下注射で投与しなければなりません。1週間中に5〜6回(1週間中1〜2日は休み)、入浴後に投与することが多いのですが、注射針が非常に細く、痛みを訴えることはまず無いため本人や家族の人が注射をしています。
日本では今まで2万人以上の子が投与を受け、和歌山県でも現在は70人ほどの子が治療中です。
6、身長の男女差について
思春期の開始が女児では約9歳半、男児では11歳ごろで、その時の平均身長は女児130cm、男児136cm、思春期後5〜6年で身長は止まりますが、その時期の総成長は女児26cm、男児32cmが平均です。最終身長の男女差は女児では思春期の発来が早いためその時点の身長が低く、かつ思春期での身長増加も少ないためです。
また、女児では初経発来後は6cm強の身長の伸びがあるといわれています。
7、二次性徴の出現と進行
男児では精巣(睾丸)が大きくなる(4ml以上)、女児では乳房の発育が出現したときを二次性徴の出現としています。
8、甲状腺機能低下症
甲状腺ホルモンは身体の活動性に影響し、甲状腺機能低下症では下肢のむくみ、食欲低下、便秘、活動性の低下、やる気もなくなり、知能障害を来し、身長の伸びも低下します。
9、愛情遮断
ヒトが愛情に飢えると精神のみならず身体にも影響が出ます。こういった子では栄養摂取の低下による身長、体重の伸びの低下に加え、成長ホルモンの分泌が悪くなり、著しい低身長になります。こういった子では家族や保護者の愛情を感じるようになると成長ホルモンの分泌が良くなり身長は伸びだします。
10、骨の病気
手足の骨が長くなりにくい病気の場合に身長の伸びは悪くなるのは当然です。成長ホルモンの治療以外に手足の骨を切って徐々に伸ばしてゆく骨切り術があります。
11、思春期早発症
思春期が早く来すぎるため、幼稚園や小学校低学年では身長は高いですが、身長が早く止まりますので最終的には身長はかなり低くなります。
女児では7歳までに乳房腫大、9歳までに生理が出現した場合に疑い、男児では9歳までに睾丸が大きくなった場合に疑います。
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