腸重積

 腸管の一部が突然に肛門側の連続する腸管内に嵌入(もぐり込む)する状態で、その部分では腸管内が閉塞されます。その結果、腸管の血管が圧迫され、血流障害をおこしますので、長時間放置すると腸管壊死をおこし、手術が必要となります。ただ、早期に発見すれば手術なしで治療できますので、早期発見が大切です。

 90%が2歳以下で、生後5か月〜9か月の子どもに多くみられます。季節では4月〜9月にその発生が多いといわれますし、感冒や下痢などの症状があって後に出現することが多いともいわれます。発症しやすい原因となる病気がなくても、数回おこすこともありますが、6歳頃からはおこさなくなります。

1、症状
@腹痛、A嘔吐、B血便が3大症状といわれます。啼泣と不機嫌が5〜15分毎に繰り返し出現します。急に激しく泣き出し、少しして泣き止むという状態が繰り返しますし、とにかく不機嫌で顔面蒼白にもなります。粘液と血液の混入した苺ジャム状の便が特徴です。重なることにより腸管が閉塞しますので嘔吐も伴います。また、お腹を触ると痛がったり、塊(腸管の重なった部分)を触れることもあります。便が出てないときや数時間前に排便しているときでも、この病気を疑ったり、心配なときは浣腸をして便をチェックします。

2、原因
 腸管がいつもと異なる異常な動きをすることで腸が腸の中に入り込むとされています。その原因としては@下痢などの後に生じることが多いので、下痢をおこすウイルスで腸管内にあるリンパ節が腫大したために腸の動きが異常となって入り込む。A離乳期に多いことから、食生活の変化で、新しい食物に対する反応、腸の動きの変化、腸管のリンパ節の腫大などが原因とされています。B3歳以上で発生するような場合には腸管ポリープ、憩室など何らかの腸の異常運動が発生しやすい原因がある可能性が高くなります。大部分は小腸が大腸につながる部分が発生場所です。

3、治療
 一般には手術をする必要はなくて、肛門から圧力をかけて重なっている腸管をゆっくり押し出して、元に戻す方法が行われています。修正されると子どもはとたんに機嫌が良くなり、泣いていた子どもがすやすやと眠ったりします。ただ、腸管の重なった状況が2、3日以上続くと腸管が破れやすくなります。この場合は圧力をかけると破れますので、手術しなければなりません。軽症な場合には自然に治ってしまうこともあるとされています。不機嫌で便に血液が混入する場合には、その便を持って小児科専門医を受診してください。




低身長

 身長は成人になってからは、小さくても大きくても大きな問題はありません。ファッションモデルになることを夢見ているのであれば身長はかなり高くないと困りますが、ほとんどの方は問題とはなりません。しかし、学校での集団生活の中や多感な思春期では問題となることが意外とあります。また、親や保護者の方も同級生の身長と比較して一喜一憂することが少なくありません。

低身長、身長増加不良
1、身長についての一般的な考え
1)男子は17歳、女子は15歳頃まで身長増加があり、それに見合った体重増加がある。
2)身長増加率は年齢により差があり、1年間でも伸びの良い季節と伸びの悪い季節がある.
3)身長の伸び率、伸びる時期、最終身長は個人差がある。遺伝や環境によって異なる。他の子と比較するべきではない。

2、低身長の主な原因
1)成長ホルモン分泌不全症(成長ホルモンの分泌が少ない)
2)甲状腺機能低下症(甲状腺ホルモンの分泌が少ない)
3)愛情遮断(子どもが愛情に飢えている)
4)骨の病気(骨が伸びて行きにくい)
5)ターナー症候群などの染色体の異常
6)特に異常はないが@低出生体重児(生まれた時に小さく、まだ追いついていない)A家族性(家族全員が低身長)B思春期遅発症(小学校高学年生〜中学校生で思春期がまだ来ていない。思春期が来ると伸びる可能性が高い)など

3、診断方法
 それまでの身長・体重の記録、手の骨のレントゲン(手根骨)、成長ホルモンや甲状腺ホルモンの分泌能力などを調べる。

4、治療
 成長ホルモン、甲状腺ホルモンは分泌が少なければ補充をする。思春期の来ない子には思春期の発達を出させる事が出来る。
 低身長の場合、成長ホルモン分泌が悪く、一定の基準を満たすと小児慢性特定疾患に対する公費負担制度が利用できるため無料になる。

<解説および補足説明>
1、低身長の子どもは引っ込み思案?
1)対人関係ではやや引っ込み思案で自分の中に引きこもりがちな面がある。

2)学校は集団生活の場であるため様々な問題が生じる可能性がある。
a)身長や体力にあまり差があると皆についていきにくい。
b)外見だけでなく精神状態も子どもっぽいため、年齢より幼い役割しか期待されない(身長および精神年齢は暦上の年齢ではなく骨の発育年齢に一致する)。
c)背の低いこと、体力が弱いことに対するコンプレックスがある。特に中学、高校の思春期に強く出る。
d)思春期の出現が遅れるため、その年齢で得るべき社会性や異性に対する感受性が育ちにくい。

2、骨の伸びについて
 発育時期の子どもの手や足の骨の両端には成長層といわれる骨を伸ばすところがあります。この成長層に適度な圧力が加えられると成長層が活発化され、骨が順調に伸びる。適度な運動は成長層に圧力をかけることになり、身長増加にプラスに働きます。どのスポーツも楽しく、適度にすることで身長に良い影響を与えます。ある特定のスポーツが特に良いということではありません。

3、成長ホルモン
 成長ホルモンは脳内にある下垂体から分泌されるホルモンで、名前が示すようにヒトの成長に大きく関与しています。それ以外にも血糖や体脂肪、蛋白合成に影響を与えます。成長ホルモンが少ないと低身長になり、多すぎると巨人症となります。

 成長ホルモンは1日のうちでも数回は高くなったり低くなったりするため、1回の検査では成長ホルモンが十分分泌されているかどうかはわかりません。ソマトメジンCという血液での値がある程度参考となるが、一般には成長ホルモン分泌負荷テストという検査をします。それは、低血糖やある種のアミノ酸や薬が成長ホルモンを分泌することがわかっているため、これらを投与して成長ホルモンが本当に分泌されるのか調べる方法です。約2時間の間30分毎に採血を行う方法で、点滴をすれば点滴のところから採血をするため痛いのは最初の点滴をする時だけである。

 この検査は早朝に行う検査であるため、当院では入院する必要はありませんが、朝に来ていただいて検査することになります。準備の都合上、予約をお願いします。

4、治療が必要と考えられる子は?
 統計上同じ年齢の子を100人身長順に並べると、前から1人または2人が公費負担で無料で治療できる可能性があります。特に日本人の身長曲線(ご希望の方はさし上げます)の伸びから離れていく(日本人平均身長との差がだんだん大きくなる)人にその可能性が強い。クラスや学年内で身長がかなり低い、ほかの子が伸びるのにあまり伸びないなど感じたら可能性があります。身長の伸びの程度も参考にしますので、受診時には今まで測定された身長のデータを持参して下さい。

5、成長ホルモン療法
 成長ホルモンは成長障害の改善を目的として行われ、血液検査などで成長ホルモンの分泌が悪いことが証明できた低身長の子供に行われています。成長ホルモンは身長を伸ばす以外にも筋肉増強、体脂肪の減少、動脈硬化増強因子の減少などにも働きます。現在の成長ホルモン療法は成長ホルモンの分泌が少ない分を補充することを目的として行われているため副作用は生じにくいですが、@多量では血糖値を上昇させる。A非常に稀だが、骨や関節に異常をきたすことがある。B副作用といえるかは不明ですが、成長ホルモンは細胞の増殖を促すため、悪性腫瘍がある子(非常に稀)では腫瘍細胞の増殖を促進させる可能性があります。

 成長ホルモンは皮下注射で投与しなければなりません。1週間中に5〜6回(1週間中1〜2日は休み)、入浴後に投与することが多いのですが、注射針が非常に細く、痛みを訴えることはまず無いため本人や家族の人が注射をしています。
 日本では今まで2万人以上の子が投与を受け、和歌山県でも現在は70人ほどの子が治療中です。

6、身長の男女差について
 思春期の開始が女児では約9歳半、男児では11歳ごろで、その時の平均身長は女児130cm、男児136cm、思春期後5〜6年で身長は止まりますが、その時期の総成長は女児26cm、男児32cmが平均です。最終身長の男女差は女児では思春期の発来が早いためその時点の身長が低く、かつ思春期での身長増加も少ないためです。
 また、女児では初経発来後は6cm強の身長の伸びがあるといわれています。

7、二次性徴の出現と進行
 男児では精巣(睾丸)が大きくなる(4ml以上)、女児では乳房の発育が出現したときを二次性徴の出現としています。

8、甲状腺機能低下症
 甲状腺ホルモンは身体の活動性に影響し、甲状腺機能低下症では下肢のむくみ、食欲低下、便秘、活動性の低下、やる気もなくなり、知能障害を来し、身長の伸びも低下します。

9、愛情遮断
 ヒトが愛情に飢えると精神のみならず身体にも影響が出ます。こういった子では栄養摂取の低下による身長、体重の伸びの低下に加え、成長ホルモンの分泌が悪くなり、著しい低身長になります。こういった子では家族や保護者の愛情を感じるようになると成長ホルモンの分泌が良くなり身長は伸びだします。

10、骨の病気
 手足の骨が長くなりにくい病気の場合に身長の伸びは悪くなるのは当然です。成長ホルモンの治療以外に手足の骨を切って徐々に伸ばしてゆく骨切り術があります。

11、思春期早発症 
 思春期が早く来すぎるため、幼稚園や小学校低学年では身長は高いですが、身長が早く止まりますので最終的には身長はかなり低くなります。
 女児では7歳までに乳房腫大、9歳までに生理が出現した場合に疑い、男児では9歳までに睾丸が大きくなった場合に疑います。



停留精巣(睾丸)

 精巣(睾丸)と卵巣は元々の起源は同じで、女性の場合は腹腔内に留まり、卵巣となりますが、男性の場合は精巣となって、腹腔内から胎生(受精後)3か月頃に下降を開始して、8〜9か月頃に陰嚢底に到達すると言われます。新生児の精巣は陰嚢という袋の底に位置しているのが普通です。この胎生期での陰嚢底への下降が途中で止まり、精巣が途中で停留したままの状態が停留精巣です。新生児の3〜5%にみられますが、生後3か月には1〜1.5%、1歳では1%にまで減少します。これは、新生児の停留精巣は生後まもなくであれば、自然に正常の位置まで下降する場合もありますが、生後6か月以降ではほとんど下降は起こらないということを示しています。

 診断は陰嚢内に精巣が触れないことで診断します。停留精巣と診断された子供の精巣の位置は腹腔内(お腹の中)が約10%、そ径部(脚の付根)は約30%、陰嚢高位(陰嚢の上部)は約60%といわれています。その他に、一時的にのみ陰嚢底に精巣が触れない移動性精巣があります。移動性精巣は緊張や刺激により精巣の位置が高くなりますが、リラックスした状態(入浴後など)では陰嚢底に存在します。停留精巣では精巣も小さく、陰嚢の発育も悪くなり、袋状に広がりません。精巣が陰嚢高位に触れても精巣や陰嚢が正常の大きさであれば移動性精巣の可能性があります。入浴時に触ってあげて下さい。移動性精巣の場合は経過観察のみで様子を見ますが、停留精巣では手術が必要で、手術は自然下降の可能性が望めなくなる生後6か月以降に行われます。

 治療は精巣を陰嚢内に収納、固定する精巣固定術が行われ、生後6か月〜2歳の間に行うのが理想とされています。治療後の停留精巣の精巣は成長と共に発育はしますが、正常と比較すると小さいことが多く、男性不妊症や精巣腫瘍の頻度が高くなります。治療開始年齢小さいほど男性不妊率や腫瘍発生率が低く、手術施行年齢が大きくなるにつれ増加します。当然ですが、無治療では男性不妊症や精巣腫瘍は高頻度に発生します。

 男性不妊症:片側の停留精巣で治療すると不妊率は10%程度で停留精巣のない正常人とあまり変わりませんが、両側だと治療しても約30%が男性不妊症になると言われています。

 精巣腫瘍:停留精巣から将来腫瘍が発生する頻度は1〜2%といわれ、健康人の5倍程の発生頻度で、20〜30歳代に好発します。




糖尿病

 生活習慣病という言葉がマスコミをにぎわしています。糖尿病はその代表としてよく取り上げられていますが、生活習慣の悪い人が必ずしも糖尿病になるとは限りませんが、適切な生活習慣は重要です。子どもの頃の適切な生活習慣は成人になってからも無理なく適切な生活習慣を維持させることに役立ちます。子どもの運動や食生活に関心をもってあげてください。ただ、良い生活習慣だからといっても無理なことはやめましょう。一生のことです。その家庭、その子に合った、出来る範囲の生活、長続きすることが重要です。

1、食事とブドウ糖、脂肪の関係
 食事中の糖質は消化吸収され、ブドウ糖として肝臓に運び込まれます。肝臓は直ちに処理、利用して一部はグリコーゲン(糖がいくつもくっついたもの)として貯蔵、さらに脂肪酸として脂肪組織で蓄えられます。逆に空腹時には筋肉や脂肪からブドウ糖を作り出しています。
 ブドウ糖は活動エネルギー源として重要であり、特に脳細胞は活動のはぼ100%をこのブドウ糖に頼っており、必須のエネルギー源です。このようにブドウ糖は体にとって重要なものなのです。このブドウ糖の血液中での濃度を血糖値といいます。この糖を細胞に取り込みエネルギーとして使えるようにするホルモンをインスリンといいます。このインスリンの働きの弱くなった状態が糖尿病です。

2、なぜ、高血糖は良くないのか。
 血糖値が低いと意識を失ったり、けいれんをおこしたりします。血糖値が高い(高血糖)ということは体の活動に重要なブドウ糖が血液中にたくさんあるということで、一見良いことのように思いますが、高血糖という状態は実はブドウ糖が細胞内で使われていないために高くなっているということなのです。つまりブドウ糖を使いたくても使えない状態なのですから体に良いわけはありません。
 血液中の糖を細胞内に取り込み、血糖値を下げるように働くホルモンがインスリンです。このインスリンの作用によって血糖値は空腹時60〜100mg/dl、食後は100〜130mg/dlとほぼ一定に保たれます。このインスリンの働きが不足すると血糖値が上昇して糖尿病となります。

3、糖尿病のタイプ
 血糖が高いと尿に糖が出ますので糖尿病という名前がついています。糖尿病はインスリンの分泌状態で1型と2型に分類されます。

@1型はインスリン分泌が極めて低下している状態でインスリン依存型とも呼ばれます。このタイプは多飲多尿(たくさん水分摂取をするようになり多量の尿も出ます)と“やせ”が症状です。インスリンを体外から補充しなければ生きていけません。

A2型ではインスリンは分泌されてはいますがうまく働かず、血糖を正常に保てない状態で、インスリン非依存型とも呼ばれます。肥満タイプの成人に多いのがこの型で、わが国で急速に増加しています。環境の変化、生活習慣の変化が原因と考えられ、運動不足、西洋型の食事、過食、肥満、妊娠、ストレス、加齢がインスリンの働きを低下させるためではないかといわれています。生活習慣病の代表といわれる理由です。

4、糖尿病の予防
 1型はウイルスや環境も多少関係しますが、主に自己の免疫が関与して発症しますので、予防することは現在の医学では不可能です。
 2型は生活習慣病といわれていますように運動不足、肥満が発症に強く関与することがわかっています。また、肥満のタイプも関係があり、体表面近くの脂肪が増える型よりも内臓の脂肪が増える型の肥満の方がなりやすいとされています。食事が十分でなかった昔は内臓肥満の人々は体にエネルギーを効率に蓄積でき、飢餓に強く生き残れるタイプの人々でしたが、現在の過食の時代では困った面が強調されます。

 異常な“やせ過ぎ”も困りますが自分の体に合った体重を維持しましょう。2型では2型糖尿病の家族歴をもった人が多いといわれていますので、こういった方は特に注意した生活が必要です。



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